第一王子side

私が生まれた頃この国は一度滅びかけた。

城の者は王族以外全員殺され、私達は人外の彼等とある約束をした。

その約束は決して破ってはいけない。

私はそう言い聞かされ育った。


この国は、ティアラ・チュードリッヒがいるおかげで平和を保ち私にも弟と妹が出来た。

私の時とは違い両親は弟達を甘やかし勉強が嫌だと逃げてもなんのお咎めもなかった。

そんな事をしていれば彼等には何も身につかず寧ろ傲慢になっていくのは目に見えていた。

だから、何度も父上達に言った。


このままではいけないと。


けれど、そういった私に返ってきた言葉は


「お前が王になるのだからあの子達は自由に生きてほしいのじゃ。

それに、嫌というのだからしょうがないじゃろ」


私は、やりたい事もやらせてもらえず

やりたくないなどと言えば鞭が飛んできた。

私は、弟達の自由の為にあの苦痛を耐えたのではない。

ましてや、あんな王族として恥ずかしい事ばかりしている弟達を大切とも思えなかった。


「父上、何度も申した筈です。

彼らは、傲慢過ぎると。他者をイジメ貶し自分が誰よりも上でないと満足出来ない。

父上は、本当に契約を守るつもりがあったのですか?

私がティアラ・チュードリッヒへのイジメを止めさせようと奔走している間貴方は何をしていたのですか?

只この愚かな者達を作り出し、作られた平和に胡座をかいていただけではありませんか。

この状況は回避しようと思えば出来たのですよ。

何も弟達だけが悪いのではありません。

彼等をそうさせたのは父上と母上です」


私がどれだけ性格を矯正しようと思っても父上達が甘やかしていて意味がなかった。

妹がイジメをしている事に気付き、妹を部屋に閉じ込め妹に便乗していた御令嬢達を罰して…そうやって奔走している間に起きたのが弟が起こした事件であった。

その日私は公務で地方の視察へ行っていた。

監視から至急国へ戻るよう連絡が来て慌てて帰ってきてみれば弟によってティアラ・チュードリッヒは追い出されていた。


「本当に、あの契約を守るつもりだったのなら

私のように彼女に監視をつけ、自分の娘のイジメを止めさせ

自分の息子の、彼女への態度にお怒りになっていた筈です。

何度も私は申し上げました。その度に貴方は彼等なりに彼女を想っているのだと見当違いな答えを言いましたよね?

相手を思いやってる人間が荷物を切り刻み、人間を閉じ込め、池に突き落とし、集団で責めあげ、階段から突き落とすというのなら私は思いやれない人間でいたいですね。

とはいっても、貴方達のせいで私も殺されるのですけど。」


幸い…と言っていいのかわからないけど

いつも間一髪で私が助けに入れていたから彼女は無事だったのだ。

突き落としたのは私の妹だというのに彼女はいつも申し訳なさそうに私に謝り私の怪我を心配してくれた。

そんな姿を見る度に、何故彼等は彼女の様になろうという努力ができないのかと怒りを覚えた。


けれど、今回は間に合わなかった。

私は公務を怠る事は出来なかった。私が働かなければどれだけ人外の彼等が外を守り作物を育ててくれていてもそれを管理する者が居なければ意味がないのだから。

国王とは名ばかりで実質私が国を回していた。

任せられる仕事は部下に任しティアラ・チュードリッヒの為に奔走し国の為に働いてきたのにその結果がコレである。


国を私が回しているとはいえ妹達を国から追い出す権力は持ち合わせていなかった。

…何故なら国王はまだ父上なのだから。


「あーららぁ、第一王子可哀想〜

こーんなに頑張ってきたのに身内に破滅に追い込まれるなんて、ねぇ?

しかも、契約した本人が一番害悪とか最悪じゃん」


私の頭を優しく撫で

お疲れ様。

そう言って微笑み横で未だ喚き続ける妹の足にナイフを突き刺した。

私はそんな妹を見ても何も感じなかった。

それよりも、初めて…誰かに努力を認められた気がした。

初めて頭をこんなに優しく撫でられたなんて笑えてきてしまう。

それも初めて私を労ってくれたのは身内ではなく他人である彼だ。


「セッカー!セラ貸してよー!この女煩い!!」


痛いと喚く妹を見ても私には何の感情も出てこないばかりか耳障りだと思った


「チナ様。

猿轡は、はめますが私はセッカ様の側に居なくてはなりません。

でなければ、すぐ死んでしまいますから。

それでは余りにもつまらない…でしょう?」


「そうだねぇ。

まだ…沢山苦しんでもらわないと…ね?」


ニタァと笑い妹を黙らせまた母上の拷問に戻っていった執事服の男。


「あっ、いい事思いついたっ!

君に今迄の鬱憤をはらさせてあげるよ。」


どうやって?と聞く暇もなく私の拘束は解かれ手には先程まで妹の足に刺さっていたナイフを握らされた。


「妹のせいで寝る間も惜しんで走り回ったんでしょう?

僕の仲間がねぇ、教えてくれたんだ。

どうせ最後なんだから今迄溜まっていたものを発散するのもいいんじゃない?

あ、だけどそのナイフを僕に向けた時点で…君ならわかるよねぇ?」


この人にナイフを向けたとしても彼を殺せはしないし

例え殺せても他の人に私は殺されるだろう。

それに、見せかけの優しさだったとしても初めて私を労ってくれた彼にナイフを向ける気には到底なれなかった。


「や、やめろ!ミヤネ!わかっているのか!?自分の妹だぞ!?」


私に怯える妹を見ても可哀想だなんて感情はわいてこない


「父上、人には限界というものがあります。

今迄我慢し続けてきました。

好きだった物も好きだった人も全てを取り上げられ…

何度…何度この瞬間を頭に思い浮かべたと思いますか?

それでも私を思いとどまらせていたのはこの国でありティアラ・チュードリッヒの存在でした。

私が居なくなれば、誰が彼女を気にかけるんです。

誰がこの国を守っていくんです…

けれど、もう私を思いとどまらせていた全てが壊れました。

それを壊したのはこの妹で…弟で…そして貴方達なんです。

どうせ私も殺されるのなら…最後くらい好きにしてもいいじゃありませんか。」


私は父に微笑み妹の自慢の髪を乱雑に切った


「まだ…これからですよ。

私の苦しみは…こんなものではありませんから。」


私はどうすれば良かったのでしょうか。

父を殺し王の座を乗っ取れば良かったのでしょうか?

それとも、ティアラ・チュードリッヒを手元に置きずっと見張っていれば良かったのでしょうか?


私が…今迄してきた事は…無意味だったんでしょうか…?


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