5/20 「遠藤さん」
不在堂書店のバイトを終え、コンビニで夕飯を買う。ついででつい買ってしまったコロッケを頬張りながら、僕は寮に帰ってきた。
「おう、お帰り高橋」
吉岡が、二段ベッドの上から顔を覗かせた。
僕の暮らす高校の寮はいわゆる相部屋で、ひとつの部屋に二人ずつが入寮している。吉岡は、そのルームメイトだ。
「まったく、いつまで待たせるつもりだったのよ」
そんな温和に挨拶をしてきた吉岡とは対照的に、僕のベッドに腰を下ろしていた遠藤さんは不機嫌そうに口を尖らせていた。
「……だから、遠藤さんが勝手に待ってるだけじゃないか」
「あ"?」
「イエ、ナンデモ」
――いつからだろう、僕と吉岡の部屋に、クラスメイトの遠藤さんが押し入るようになったのは。
遠藤さんは僕達の住む男子寮とは別にある女子寮に住んでいるのだが、どうもそちらの方にはあまり定住していないらしい。友人の家に泊まらせてもらったり、こうして僕達の部屋に押し入ったり。ここで泊まられる度に僕は、毎度座布団を敷いて床で寝る羽目になるのだからとんだ迷惑である。
しかし無理やりにでも帰そうとすれば、遠藤さんはニヤニヤしながら、『あれ~? いいのかな~? 今私がここで服をはだけさせて悲鳴をあげちゃってもいいのかな~?』などと脅してくるのだ。女の子って怖い。
「さーて、じゃあ始めますか……」
ポキポキと指を鳴らし、遠藤さんが不適な笑みを浮かべる。それは僕にとって地獄が始まることを意味し、同時に遠藤さんにとっての至福の時間が始まることを意味していた。
「高橋くん、それ夕飯でしょ? 何買ったの?」
「何って……カレーですが」
「ふーん。ま、なんでもいいや」
じゃあなんで聞いたんだよ。
「吉岡くーん、出番ですよ出番」
手を鳴らし催促する遠藤さん。渋々といった雰囲気を出しながら、上から吉岡が降りてくる。
「……で、今日は何をさせるつもりだ?」
「あーんで高橋くんに食べさせて」
「は?」
呆けた声は僕のものだった。
「いいじゃない、減るもんじゃないし。ほら、さっさとチンして。熱々にね、その方が長くふーふーできるでしょ?」
床に座る僕達をベッドから見下し、女王が
――遠藤さんは、生モノでしか興奮しないタイプの腐女子である。
泊まりに来た遠藤さんはこうして毎回僕達を絡ませては、それを見て息を荒げるという、地獄でしかない空間を生み出す。
まぁ億万歩譲ってそれはいい。なによりも問題なのは――
「こ、これは遠藤に命令されてるから、仕方なく……そう、仕方なく……」
最近の吉岡が、どう見てもノリ気であることだ。
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