第16話 出世と転封



 自領のアスーコリに帰って1週間後、詔勅により、リキは伯爵に封ぜられた。今回も加増ではなく、転封を言い渡された。僅か半年ほどでの異例の出世ではあったが、またしても転封との下知に、家臣の一部から国王への不満が噴出した。

 曰く――。


「国王陛下は我らを道具か何かのように考えておられる」

「これでは、領国経営など出来ようもない」

「引越し費用も馬鹿にならない」


 などなど――。

 これらの批判を、リキは苦笑して聞く他なかった。今回の転封地は何と、討伐したガレアッツォ侯の元領地であった。主君を失った領地の統治を任されたのである。


 封じたアンジェラの方にも理由があった。先の遠征で討伐されたのは、ガレアッツォ侯ただ1人。恩賞に与える土地が、そこ以外になかったのである。遠征に参加し功のあった他の貴族たちには、金品・宝物の類を与えることで、アンジェラは報いた。

 召し上げたアスーコリの地は、王家の直轄地とされた。今後、今回同様のことが起きた場合に、恩賞地として与えることを念頭に置いたものと思われる。


 何はともあれ、新たな領地――ヴォルテッラに赴いたリキたちは、またもや貴族たちの悪癖を垣間見ることとなった。ガレアッツォ侯もご多分に漏れず、豪華絢爛な生活を送ってきたのだ。恐らく、自領の経済状況など、ただの1度も顧みることなく――。

 前の領地を治めていたロヴィーノ卿の杜撰さも大概だったが、ガレアッツォ侯も同様であった。例えば、先の戦いではガレアッツォ侯は6,000騎もの兵を出してきたが、実際に抱えることが出来る兵力は、騎兵3,000、歩兵などを合わせても7,000余。総勢で1万余の兵力を持つなど、土台無理な話であり、とっくの昔に財政は破綻していたのだ。


 そこで、リキたちは先ず、この領国の農作物の取れ高を調査することから始めた。その他に、農産物以外の収入、特産物の種類、市場の規模、物品の流通量、そこからの税収入を調べ上げた。その後、今度はあらゆる経費をまとめ上げ、収支を鑑みて、有効な政策を考えていくことにした。

 もっとも、基本的なことはアスーコリでの施策と同じである。治水事業、農産物の品種の選定、市場の拡大、輸送面も考慮した街道の整備――。

 これらの政策に辣腕を振るったのは、やはり、家宰のコジモであった。リキの仕事と言えば、彼の提出する書類に裁許の署名をするだけ――と言っても過言ではないほどで、リキも、


「彼がいないとウチは成り立たない」


と言って憚らなかった。彼を筆頭にした内政を担当する官吏らの奮闘によりヴォルテッラの政は充実していった。年が改まり春になる頃には、市が賑わい、城民が住む家屋は城壁内だけでは足りずに城外にまで溢れて、さらなる広がりを見せるようになった。ヴォルテッラの都と3つの町とを結ぶ街道も徐々に道幅を拡張され、人々の往来は以前とは比べ物にならないほどに活発になり、物資の流通量も増えた。


 ヴォルテッラに移ってから1年半ほどの間に軍勢催促は2度ほどあったが大規模なものではなく、2度の兵役で出した兵はともに500騎ほど。リキたちにとっても比較的負担の少ない出兵であった。


 そこでもリキの軍は軍功を上げ、2回とも恩賞に金品を頂戴した。



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