第29話 マスティマ女王の秘密

 アガレスに誘われグリモア城の隠し部屋を訪れた。

 部屋は厳重にガードされており、入り口は鉄の扉は施錠され門番が見張りを行っていた。

 部屋の奥にまた扉があり、魔法で施錠されていた。


 「μοιρα」


 アガレスが開錠の呪文を唱えると扉はゆっくりと開いた。


「さあ、これだ」

 アガレスの短い言葉。俺は示す方向を見て心底驚く。


「なるほどな。アガレスが反乱を起こしたのはこいつのせいか」

 アスタルトが腕組みして目を閉じた。

「そんな……この方は……女王」

 重騎士グレンの言葉に俺は再び驚く。

「これが女王? ゴース公国のマスティマ女王なのか? でもこれって機械……」


 俺たちの目の前に机が置かれており、その上に人間の上半身だけが置かれていた。

 目を凝らしてみると人間のように見えたそれは、壊れた機械の人形だった。


「ふ~~う」深いため息をついたアガレスが語り出す。


「これが神人の推挙の結果だ。三十年前にマスティマと私たちの騎士団が大陸を平定した。しかし……」


 壊れた人間の形をした機械を悲しそうに見る暗黒騎士。

「神人は永遠の管理者としてマスティマを機械化したのだ。確かにこの体は永遠に動き続けるはずだった。だが実際は十年程度で壊れ始め、マスティマの心を失ったこの機械は、大陸を戦乱に向かわせようとした。だから……壊すしかなかった。私の手で」


「神人はひどくないか」俺は大いに憤慨した。

 好きな人を機械に変えられ、心を失った恋人の人形と日常を共にする。

 そして作り物といえ、愛する者を壊さなければいけなかった。

 言葉が出なかった俺たち、代弁するように獣王が口を開いた。

「そうか。目的はこれを停止させるためだったのか……つらかったなアガレス」

 

「ふーーう」ため息をついたアガレス。


「もう見てられなかった。俺の愛する者が世界を混乱に導くのを。それで力を貸したのだ。レべリオンのリーダーである六頭龍の王に」


目を開けた獣王が頷いた。

「六頭龍の王……赤龍モートか」


 アガレスは昔を思い出すように語った。

「かつて私たちと一緒に大陸を平定した騎士団の一人。モート・アーカイブ。魔女アーシラトはあいつの真の力を知り近づいて記憶を呼び戻した。そしてモートは立った」


 アガレスが壊れた機械に触ると、人形は口を開き、古い言い伝えを話した。


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遙か昔の事……

 世界を光りで包み込む計画を立てた天の神子は、自分の光を受けても輝かない星を見つける。真の闇で覆われた星に、天の神子はさらに強い光を送る……


 だが闇は消えない。不思議に思い闇の星に近づく天の神子。

 そして見た……巨大な六つの頭を持つ竜が星を覆っているのを。

 天の神子は持てる最大の力で、巨大な竜を焼き殺す。


 巨大な六つの頭を持つ竜を殺したが、天の神子の力は強すぎて、竜から解放された星をも焼き始める。


「些細な事だ」


 天の神子は邪悪な六頭竜を払えた事で、星が燃え尽きるのは運命だと諦めた。

 星が焼き尽くされる直前。

 月の神子は星を守るように立った。

 持っていたベールで星を被い、強すぎる光から生きる者を隠した。

 

 その影が夜を作り、再び闇を蘇らせ、六頭竜の血が蘇り新たな戦いが起る。

 その時、月の神子は力への意思を次なる者へ手渡す。


 力への意思それが天の神子の遺産……


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  ここまで話すと機械は停止した。

 アガレスが俺にもわかりやすく意味を教えてくれた。

「古代の本当の神は六頭龍であり、今の世界は神人の先祖である「天の神子」がこの世界を破壊して再構築したのだ。そして神の遺産をこの世界に残した」


 俺はビビッていた。

 この地に大魔王に送り込まれた理由は、世界を救えという事だった。

 しかも相手は実姉の魔女アーシラトに、魔王ラシャプ、そして古代紳の力を持つ、赤龍王。


「死にゲーというよりムリゲーぽくないか!?」

 

 



 

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