第12話 獣王の帰還
「嬢ちゃん。相変わらずだな。見事な剣技だったぞ」
またも俺は背後の気配をとらえる事が出来なかった。
俺の後ろに立つのは獣王アスタルト。
体重280キロ身長2メートル58センチの巨躯。
だが全く気配を発していない。
「おいいーー今までどこ行ってただあーーアスタルトーー!」
エガシラふうに突っ込んだが獣王には通用しない。
「うん? おまえこそ何してた? もしかして自力で脱出できないとか、ハハ、それはないよな?」
う、言葉に詰まった俺は逆に問う。
「アスタルトはロケットの着陸……いや墜落時にどうしてたんだ。俺なんか……」
こっちを見ているアイネを意識して声を低くした。
「……俺は気絶したぞ。あの衝撃でもアスタルトは平気だったのか? それにシートベルトはどうしたんだ?」
ガハハハッ、大笑いしながらロケット墜落時の事について答えるアスタルト。
「シートベルトってなんだ? 席についている紐なら俺の身体だと、はまらんのでしてないぞ。落下時は身体を丸めてショックを和らげた」
リスが冬眠中に身体を丸めるような感じとアスタルトは言う。
「こんなでかい剛毛な毛玉はないな」
「剛毛じゃありませんよ」アイネが近づいてきた。
「転生勇者はお連れでしたか。獣王ひさしぶりですね。あいかわらずのモフモフですよね」
近づいたアイネは、アスタルトの毛を触りながら微笑みかけた。
「おう、俺のは最上級の毛皮だからな。ところでエール騎士団の団長のお前が、単独行動とはどうゆうわけだ?」
獣王を触りながらアイネが答えと質問を投げかけてきた。
「もちろん、ゴーストとジパングの戦争ごっこの裏を取りにですよ。詳細はすでにお調べになってますよね獣王……というか当事者でしょ?」
ふっ、アイネの疑った表情に鼻で笑う獣王。
「まあな。この坊主が寝ている間にひとっ走りしてきた」
獣王の言葉に納得してから続けてアイネ。
「あの男は来ていましたか?」
首を振るアスタルト。
「いや、やつは来てない。だが懐かしいやつにあった」
なるほど、納得するアイネを見て俺は叫んだ。
「おいおい、二人で納得していないで俺にもわかるように教えてくれよ!」
大きな声を出した俺を見たアイネは呟いた。
「変態だけではなく頭もシンプルなんですか?」
獣王がアイネのつぶやきを聞いて驚き俺に聞き返す。
「バアルおまえ、アイネになんかしたのか? 頭がシンプルなのは初めからだが、変態は知らなかったぞ」
ふぅ、ため息をついたアイネは疑惑を高める言葉を発した。
「この人……バアルでしたか? ロケットの中で緊縛プレイをなされていて、あまりにマニアックな縛り方で自分で解けなくなり、私が助けたところでした」
まてまて、俺は誤解だと体全体で否定するが、獣王はスルー。
「そうか変態か……それは……どうでもいいな。それよりレべリオンの斥候を切り捨てたが、エールは参戦するか?」
獣王の毛皮に顔を押し付けて、最上級のモフモフを楽しんでいるアイネは自分の状況を話した。
「うちは参戦しませんね。すでにゴースは陥落寸前です。かなり城に近いこの場所に百人隊長がいるところを見ると」
ああ、獣王が見た光景を口にする。
「五千ほどの兵が城へ向かっていたな。将軍はアイツだった」
モフモフで気持ちよさに、表情が緩むアイネだか少し強く獣王を見た。
「誰の策略か知りませんが……ゴースの騎士団をジパングとの戦いの為と動かして、女王の居城を手薄にしました。人数は少なくても赤龍士団(レべリオン)は精鋭ぞろい。城はすぐに落ちるでしょう」
そうだ、アスタルトが頷く。
「それでアスタルトと、えっと、バアルでしたっけ? どうしますか? これから加勢にでもいきます?」
嘘をつけないアスタルトは苦笑い。アイネは言葉を続けた。
「何もゴース側につくとは言ってませんよ。赤龍と計を合わせたのはあなた方でしょう? 獣王アスタルト。まあ、あなたが小細工するとは思えないので」
モフモフ顔の穏やかさが一瞬消えたアイネ。
「魔女アーシラトが絡んでいるのでしょう? 彼女は非常に危険です。覚悟して参加してくださいね」
驚いた、ここで姉の名前がでるとは思わなかった。
大陸にその名を轟かす、魔女と呼ばれる転生した姉アーシラト。
俺よりぜんぜん有名人じゃん!
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