第2話 壊れて錆び付いてオカシクナッテ



 あれは太陽が照りつく季節。六月の土曜日の出来事だったかな? その時、僕はあるゲームに熱中していたのさ。


「ねぇ、〇〇?……もぉ、やめといた方がいいんじゃないの。朝からそれやりっぱなしだよ〜?」


「やり過ぎって何をだい? 土曜なんだからいいじゃないか。別に……」


「だからって5時間はやり過ぎよ……? 貴方、朝から、何も飲み食いしていないじゃない。いい加減やめた方がいいって……」


 そう、それは旗を取り合うゲームだった。

 この日の僕は朝6時に起きてから11時まで、ぶっ続けでスマホのゲームをしてんだ。えっ? なんで5時間もゲームをしていたかって?

 

 理由は簡単。ここまでやり続けてたのは僕が負けず嫌いだからだよ。後ちょっと……後ちょっとの所で必ず試合に負けるんだ。嫌になっちゃうよね。具体的になんで負けるのか分からなくてさ。それでやり続けたわけ。


 だけど、母もあまりの熱中ぶりに危険を感じたんだろうね。スマホを強引に取り上げてこう言うんだ。


「もぉぉぉぉ!! こんなの取り上げちゃいます!」


 母さんは無理やり、スマホの電源を切る。すると軽快な音楽は止まり、僕は呆然とした。


「ちょお⁉︎ あぁ……折角勝てた試合だったのに……」


 くたびれる僕だったんだけど、母さんは僕の小言を無視して、冷蔵庫を指差す。


「とりあえず、水分! 水分を飲まなきゃ! 貴方こんなんじゃ死ぬわよ! いつまでこんなのやってるの! さっさと水分取りなさい」


「死ぬってそんな大袈裟な……」


「大袈裟じゃないわよ⁉︎ グアムに行って帰ってから貴方何週間寝込んでた⁉︎ 二週間よ! 二週間! その間ずっと眠り続けてたんだから! もう私とっても心配したんだからね!! それに子供の時だって――」


「ハイハイ、それはもう聞き飽きたから。なんか飲めば満足するんでしょう? 飲めば。分かった。分かりましたよ。指示に従います。これでいいですか? 母上?」


 そう、母の口癖はいつもこれだった。何度聞かされただろうか? "油断したら死ぬ"僕は、幼少期からずっとこういう扱いをされてきた。


 まぁ、その自覚はっきり言って大有りだ。  

 僕はいつ死んでもおかしくないなぁとは毎日思ってた。

 

 何を隠そう、僕は、はっきり言って病弱だ。幼稚園の時はいつも風邪っぴき。小学校では毎週土日は病院通い。テスト、運動会、遠足、音楽祭、友達と遊んだ後はいつも風邪を引く。


 だからいつでも遊びに行けず、教室でいつも一人ぼっち。


 体温調節も出来ない。夏場は暑過ぎて体温は38.0°、冬場は冷た過ぎて34.0°、うん中間が存在しないんだ。


 おまけに手足がいつも焼けるように痛い。立つのも辛い。起きてるのも辛い。食事も辛い。寝るのも辛い。呼吸も辛い。みじろぎしても痛い。


 つまり四六時中ずっと辛くて苦しいわけだ。ははは、痛くて辛くて苦しいのがずっとあったんだよ。つまり僕は生まれた時から地獄にいたんだよ。今は大分解消されてるけどね。


 幼少期の時は散々これに苦しんだ。みんなは僕を笑うんだ。怠けてると思ってるのかね?   

 欠伸をしたり、痛みに耐えたり、辛そうな顔をしたり、休憩したりすると、みんな不機嫌になるんだよ。


 貧弱だ。体力がない。根性がないって。あいつは怠けてる。俺らは真面目に頑張ってる。だから正しいアイツを俺らが叩いて鍛えてあげようって。


 いやぁ、小学校は地獄だったね。レッテル、中傷、嫌がらせ、のオンパレードだったさ。果ては小学校の頃からこの自我だったからさ。自分の考えが高度過ぎて周りと話が合わない。


 変人、狂人、障害児って何度言われたことか。陰で傷ついて泣いたのもね。


 まぁ、そんなわけで僕にとって正常な感覚ってのは、とっくに崩れてたんだよ。僕は自分の感覚を信じることをやめてたんだ。

 自分の心を守るために。自分がおかしいって言われないために。


 だからだろうか? 僕はめまいがしても足がもつれても、視界がかすんでも人とぶつかっても特に気にしていなかったんだ。


 おかしいのは自分だ。軟弱な自分がおかしいんだってずっと蓋をしてね?




 そうしたから、僕はあんなことになったんだね。本当家族がいてよかったね。


 飲み物を取りに行ったら突然、崩れ落ちたんだから。

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