第18話 究極の選択

「お兄ちゃん、もう一度聞くね? 私と由佳ゆかちゃんなら、どっちを恋人にしたい?」


 真央まおは俺に、いたずらっぽい笑みとともに質問してきた。

 ぶっちゃけて言えば、このような質問ははっきり言って愚問だ。


 まず、真央は俺の妹だ。

 いくら可愛いとはいえ、血のつながった兄妹とは結婚できない。

 なので検討するまでもなく、選択肢から自動的に除外される。


 さて、残るは幼馴染の由佳だが……

 彼女は昔から付き合いのある友達だ。

 それ以上でもそれ以下でもない。

 しかも中学生になってからは、思春期のせいもあってお互い避けるようになった。


 なので俺は──


「どっちも──」

「あっ、もしかしてどっちも恋人にしたいとか!? やだなあ……お兄ちゃんって欲張りさんだね……えへへ」

「え、ええっ!?」


 どっちも恋人にはしない。

 そう言おうとした矢先、真央が俺の言葉を遮るように言って笑った。


 でも、もしかしたら真央の言うとおりに答えたほうが、場の雰囲気が悪くならずに済んだかもしれない。

 「冗談」ということで笑って済ませられるし、何より拒絶しなくて済むからだ。

 向こうが冗談のつもりで質問してきたのなら、こちらも冗談で返すのがマナーだろう。


 ある意味真央に助けられた形となった俺は、思わず安堵の溜息を漏らす。


「ねえねえ由佳ちゃん! お兄ちゃんってすごいね!」

「え、ええっ!? 弓弦ゆづる、二股なんて許さないわよ!」

「あはは……」


 俺は由佳に揺さぶられる。

 矢車菊の甘い香りがして、なんだか落ち着かない。


 だが、これでいい。

 「どちらも恋人にしたい」という返事は、誰も傷つけない。

 強いて言うなら、俺が変態扱いされるだけだ。


「由佳ちゃん、それ以上揺さぶっちゃダメ!」


 真央が由佳を制止してくれた。


 はあ、助かった……

 正直言って脳震盪を起こしそうになったし、それにいい香りがして興奮してきたからだ。


「お兄ちゃん……えへへ」


 俺の腕に柔らかいものが当たる。

 それは、真央の小さなお胸だった。

 俺は真央に、右腕を抱きつかれている。


 薔薇のような甘い香りがする。

 柔らかい感触もあって、俺はイケない気持ちになってしまう。


「ゆ、由佳もいるのに……それはダメだろ……!」

「あれ〜? 由佳ちゃんがいなかったらイチャイチャしていいの〜?」

「そ、そんなのダメに決まってるじゃない! ──よいしょっ……」


 由佳は顔を真っ赤にしながら迫り、俺の左腕に抱きついてきた。

 彼女は真央と違ってとてもお胸が大きいので、いっぱい押し付けられても柔らかさを保っている。


「き、君たち! 勉強しに来たんじゃなかったのか! ──うっ……」


 俺は目の前が真っ暗になり、昇天した。



◇ ◇ ◇



「──はっ!?」


 俺は目が覚めた。

 時刻は16時頃、二人に抱きつかれてから2時間は経過している。


「お兄ちゃん、やっと目が覚めたんだね!」


 真央はそう言って、俺に抱きついてきた。


「も、もうやめてあげなさいよ! さっき、真央が抱きついたせいで気絶したんでしょっ!?」

「あ、そうだったね……ごめんね? お兄ちゃん」


 由佳、君のせいでもあるんだけどな……

 まあ、真央の愚行を止めてくれただけ良しとしよう。

 もっとも、由佳はなぜか涙目で、顔が真っ赤だったのだが……


「弓弦、大丈夫?」

「だ、大丈夫だ……昼寝したからスッキリしたよ……」


 心配そうな表情をして、俺の顔を覗き込む由佳。

 俺は彼女の顔を見て矢車菊のような甘い香りを思い出し、少しだけドキッとした。


 由佳は身長が高くスタイルも抜群で、巨乳だ。

 顔だちも美しく、先端にウェーブがかかっているロングヘアも相まって、優雅な雰囲気を感じる。


 そう、由佳は見た目がとてもいいのだ。

 男と付き合っている節がないのが不自然だが……


 しばらくの間は彼女から避けていたので分からなかったが、今それを実感した。


「大丈夫なんだったら、私そろそろ帰るわ。今日は……その、ありがとう……」

「ああ、またいつでも来てくれ」

「また遊ぼうね、由佳ちゃん!」

「ええ、真央! バイバイ!」


 俺と真央は、由佳を玄関まで送っていく。

 そして由佳が見えなくなるまで見守った後、再び家の中に入った。


「お兄ちゃん、英理香えりかちゃんよりも由佳ちゃんと付き合いなよ。それならまだ許せる……かも」


 真央は顔を赤らめながら、そう言った。


「俺には『付き合う』とか『恋人』とかっていうのがよく分からないんだ。だから今は誰とも付き合えないよ」

「そうなんだ……それならまあいいか……」


 真央は胸をなでおろしているように見えた。

 何故彼女がそんな表情をするのか、俺にはよく分からなかった。


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