第104話 生き残って──
「…………あの、千尋」
「……なに?」
看守が去って、一時間ほどだっただろうか。窓がないため、昼なのか夜なのかすら分からない。時間感覚が狂う。
「生きよう。生きて、助けよう。みんなを……」
「うん……だね」
そう、生きないといけない。こんな鬼畜な状況から藻掻いてやる。這い上がって……、みんなを助けるんだ。
生き残って、やるんだ……っ。
「……ネットショップ。なにかあった?」
「……うん。魔法が火、水、風、光、闇。それと光源や毒合成っていうのがあった」
引きずってばかりでは、祐希に迷惑がかかる。頭の中で死んでしまった人のことを記憶にとどめながら、僕は言葉を紡いでいく。
「……火と毒が使えそうだね。具体的にどんな効果があるの?」
「うーんと……」
火属性魔法
火属性魔法が使える。特級(特別級)、上級、中級、下級とあり、下級は一度で焚き火の火程度だが、特級にもなると直径1キロメートルを火事にさせることすら可能。とはいえ、持続時間が短い。
毒合成
毒を合成できる。特級(特別級)、上級、中級、下級とあり、下級は身体が痺れるほどだが、特級となるとあらゆるものを腐食することが可能。とはいえ、持続時間が短い。
火属性魔法と毒合成について、ナビゲーターが言っていたことをそのまま祐希に話す。
「……チートすぎない? 特級なんて、僕の魔法でも上級が限界というのに……。それに、毒合成に至ってはあらゆるものを腐食、ね。……ん? それ、使えない?」
「……使える、ね」
あらゆるもの……それなら、この枷にだって通用するはずだもんね。でも、問題が一つある。
「……それ、もし枷に使ったとして、まさか手まで腐食するなんてこと……」
「……ありそう」
……そう、この毒合成。おそらく、枷は腐食できるだろうけど、手まで腐食しかねない。手まで腐食してしまったら意味がない。
スキルは使えるようになるとしても……そこまでの危険性を考えるとどうしても手を伸ばしづらい。
《……君のみ、ではありますが、手まで腐食することを阻止することはできますよ。毒耐性のレベルを上げさえすれば、手が何日か動かない、くらいで我慢できると思います》
「……なるほど。確かに、それなら……でも、それでも手が何日か動かなくなる……か」
「ん? どうしたの?」
「え、あぁ、いや。僕だったら毒耐性でなんとか耐えられるかもしれないって思ってさ」
「あぁ、なるほど……。じゃあ、使ってみれば?」
「ただ……それでも、おそらく手が何日か動かなくなるんだよねぇ……」
「な、なるほどぉ……」
多分痛みも伴うんだろうし。正直怖い。
……けれど、それしか方法がない。選択肢がない。だから、僕は無理矢理にでも生きることと痛みを伴うことを天秤にかける。そうすれば、明らかに答えは一つ。
「……よしっ、やるよ。それくらいしか方法がないからね」
「……が、頑張って」
「うん」
そして、毒耐性のレベルをスキルポイントをすべて使って1から7へと上げる。
その後、久しぶりに出てきたTポイントを消費して、特級(特別級)の毒合成魔具を買う。スタンピードの時とかモンスターはだいぶ倒してきたし、十分足りていた。
そして、買うをポチッと押した瞬間、僕の目の前に大きな水晶玉のようなものが出てくる。水晶玉はまるで吸い込まれてしまうかのような、神秘的な雰囲気を醸し出していた。
「…………ふぅ」
《毒合成…対象、枷》
ふぅ、と息を整えてからその言葉をつぶやく。その瞬間、水晶玉は淡い紫色に光り始める。
枷の上に毒の塊のような液体が浮かんでいた。どうやって浮いているのだろうかとか考えていた瞬間、その液体は枷に向かって落ちる。
そして、枷はだんだんと崩れ始めた。
「……やった、壊れ……」
喜ぼうとしたのも束の間、予想通り手をも腐食を始めた。
「……っ、うぐ……ぅぅうぁぁあぅ……ぁぅ……」
痛い……苦しい……辛い……っ
声を必死に抑える。大きな声を出してしまったらあの看守に気付かれる可能性がある。
痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いっ! 皮膚どころか、その次の筋肉すらも溶けていくような、そんな感覚。
毒耐性をもってしても、決して耐えられるようなものではなかった。手がまるでなくなってしまったかのように感覚がなくなって痛みが収まるまで、30分近くもかかった。
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