えほんちっくみことばなし

奈月遥

森の中の葉踏み鹿

かさり、かさり、と森のなか。


だぁれもいない、森のなか。



かさり、かさり、と足音が。


だれもいないのに、足音が。



ほんとにいない?

だぁれもいない?



かさり、かさり、と音がする。

きっといるよ。だれかがいるよ。

さがしてみよう。

さがしてみるよ。


まえをむいても。

だぁれもいない。


かさり、かさり、と音がした。

うしろのほうからきこえたよ。


それなのに。


うしろをふりかえっても。

だぁれもいない。



とうめいなのかもしれない。

みえないものなのかもしれない。


音しかいない、だれかがいるの?



いいえ、いいえ、ちがいます。



かさり、かさり、と落ち葉を踏んで、音を鳴らしただれかがいるの。



ねぇ、それはいったいだれなの?


それは、さみしがり屋のだれかだよ。あなたをずっと見ているの。


ねぇ、どうしてすがたを見せないの?


それは、とてもおくびょうだから。

ともだちになりたいのに、ともだちになれるじしんがなくて、かくれているの。


ねぇ、かくれてるのに、音で見つかるよ。


ふふ。だって、あの子はとてもからだがおおきくて、あるくと落ち葉を鳴らしてしまうの。




かさり、かさり、と落ち葉を踏んで。

かさり、かさり、とついてくる。


たしかにいるよ。

みぎのほうで、足音がした。


でもそこにはなんにもいない。


たしかにいるよ。

ひだりのほうで、けはいがしたよ。


でもそこにはなんにもいない。



たしかにいるよ。

森のなかにいるよ。

あちこちで、だれが落ち葉を踏んでるの?


だれかが落ち葉を踏んでるの。


いったい、だれぞ。葉を踏みしか。


しかさん? しかさん?

あっ、あそこにいた!

森のなかのずっと奥に、しかさんいたよ! みつけたよ!


ざんねん、それは、ただの鹿。



未言 言未


葉踏み鹿(はふみしか)

落ち葉や団栗が腐葉土に落ちて鳴る音。何かが後ろを着いて来るように感じるのに、振り向いてもそこにはいない。けれど大きな獣の気配がするような。

たれぞ葉を踏みしか。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る