瞬殺姫〆アデッサの冒険
西れらにょむにょむ
プロローグ
瞬殺姫〆アデッサの冒険
空を舞う巨体が太陽をさえぎるとあたりは
翼の
だが、何千年ものあいだ王者として君臨してきた彼は、人間どもの待ち伏せなどを恐れはしない。警戒をするそぶりさえ見せずに、大胆に、待ち伏せの中心へ向けて降下してゆく。
巨大な翼が二度、地を
嵐のような砂ぼこりがあがり着地とともに大きな
精鋭たちはその凶悪な姿をまえに、体をこわばらせる。
この怪物がこれまで対峙してきた敵よりもはるかに強力であることを、それぞれの経験から的確に感じ取っていた。
戦士が
だが――
咆哮は止むことなく、やがて吐く息が熱気を帯びはじめ、ついには噴き出す炎へとかわる。
巻きあがる炎を背に悠々と首をもたげる、翼の主。
モンスターの王、ドラゴン。
そして、その前へ悠々と歩みでるひとりの少女――
「瞬殺!」
◆
波が山のようにそそり立つ。
二百人乗りの巨大なガレー船が荒れ狂う海原で木の葉のようにゆれる。
砕けた波が四方から叩き付け、船は折れてしまいそうな軋み音をたてた。いくつもの死線をくぐりぬけてきた船乗りたちさえも、船と
だが、その異変さえもほんの幕開けにすぎない。
数百メートル先の海面がせり上がってゆく。
海中から水面へと現れた、感情を持たぬ巨大な眼がギラリと
なにかが爆発したかのような音をたてて水面が割れ、何本もの、竜の首のような触手が海中から現れた。
深海の異形の王、クラーケン。
そして、ガレー船の
「瞬・殺!」
◆
その力は神の
「瞬ッ・殺ッ!」
全ての敵を瞬殺し、少女が勝利の雄叫びを上げる!
「おおおおおおおおおッ!」
こうして世界は平和になる――
筈だった。
だが、魔王討伐により世界はかえって混乱してゆく。
魔王による
そして冒険者からの需要により支えられていた武器屋、商人、宿屋、医者……などが不況にあえぎ始める。
経済だけではない。
魔王という絶対悪の存在を失い『正義』の定義は曖昧となっていった。魔王という共通の敵をうしなった国々は自国の利益にはしり、
世界は魔王へ向けられた
各国は『魔王なき世界の新秩序』を
だが、どの国もブレイクスルーとなるアイディアを出すことはできなかった。
そして、
人間と人間との憎しみ合いの上でバランスを取り戻そうとする世界。
魔王討伐からわずか数か月で、ここ『ミンヨウ大陸』の国や街、そして村々までもが、きな臭さで包まれていった。
まるで、魔王が残した呪いのように。
◆
そして、少女は再び旅に出た。
あのときと同じように、人々の幸せを願って。
私は、殺すことしかできない。
魔王なき世界で、何と戦えばよいのだろう。
答えは見つからなかった。
だから、少女は再び旅に出た。
新たなる仲間と共に。
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