4考目 踊る宗教 1

島鳥大学の就活サークルの部室。


守は髪先をクルクルと遊ばせながら牛乳を飲んでいた。


何も考えず、ぼーっとして午後が過ぎる。


そんな日常が彼にとっては最高の至福である。


そして、ひとしきりぼーっとした後は情報収集をするのが彼の日課になっている。


「さてと、」


彼はカバンから新聞紙を取り出し、机の上に広げた。


守が情報収集をする際に、特段決まった手段方法がある訳ではない。


それがネットニュースの時もあれば、SNS、そして今回のように新聞で情報を漁っていく。


彼曰く、そのほうが色々な種類の情報に触れられていいのだという。


一気に全部目を通さないのは頭をなるべく使わず、なるべく物事を考えたくないからである。


要するに守は世間体として、人と話を合わせられる位の最低限の時事が分かればいいという程度でしか情報収集をしない主義なのだ。


「金と政治か。。。」


新聞の見出しを読み、ぼそっとつぶやく。


守が読んでいる新聞は今朝、コンビニで牛乳と一緒に買った朝刊だ。


一面は大物政治家が大手ゼネコンとの収賄が発覚したという記事だ。






ガラガラ。


部室の扉がおもむろに開き、飛鳥がゆっくりと入ってきた。


守の前では口調がヒートアップすることがあるが、普段はおしとやかな性格であることがうかがえる。


「あら、守、今日も早いわね。授業は終わったの?」


「ご覧の通りだよ。あと読み物をしている時はあまり話しかけるなと言ってるだろ。」


守は飛鳥を睨む様に一瞥して、新聞に目線を戻す。


「さいですか。失礼致しました。ところで何読んでるの?」


「君は失礼の意味を知らないようだな。」


飛鳥は守の傍らに移動すると、新聞を覗き込んだ。


「新聞?守って新聞好きよね。前も読んでたじゃない。よく飽きないわね。」


「新聞はそういう概念ではないと思うのだが。」


「何々、何て読むのこれ?

あ、この政治家知ってるわ。たまにテレビに出てるわよね。」


「しゅうわいだ。あいにく僕はテレビを見ない。」


「しゅうわいって何よ。よくそんな小難しいこと分かるわね。」


「ん?またまたあいにく、これを難しいと思ったことがなくてね。収賄とは賄賂、つまり、この政治家は不当にお金をもらってとある会社に便宜を図ったんだ。」


「べんぎ?とにかくこの人はお金を使って悪さをしたのね。」


「君ならその認識で十分だ。」


守は目線を新聞にやったままニコッと笑った。


「でもさ、どうして政治家とかって、お金関係で捕まる人が多いの?あたしずっと不思議だったのよね。」


「端的に言えば資本主義だからだ。資本主義は金を持っているやつが一番偉いんだ。政治家なんてのは権力があってなんぼだろう。だから政治家は必死になって金を集める。すると金を集めるのに成功した政治家には大きな権力が生まれる。そんなやつのところには金が集まる。その権力を使ってまた金が集まる。これの繰り返しだよ。」


「なるほどね。でもそれで何故逮捕されるの?」


「世の中にはルールがあってね。公共の福祉といって、他人には迷惑を掛けてはいけませんというルールだ。つまりルール内で金を集めるのはいいが、他者を侵害しての金集めは禁止ということだ。この政治家はルール違反を犯したんだ。だから逮捕された。」


「ふーん、守って何でも知ってるわね。どうしてこんな大学にいるのかしら。」


「思いがけないのはこちらも同じさ。」


守は不服そうに新聞を閉じて、飛鳥に座るように促す。


飛鳥は机を挟んで、守の向かい側に腰掛けた。


「で、何か用事があって来たんだろ。言いなよ。」


「あら、よく分かったわね。」


「君は用事がない時はここに来ない。」


「ただのお茶会の時もあるじゃない。」


「。。。就活しろよ。で、本当に何の用事だ?」


「守さ、宗教入ってみない?」


突然の飛鳥の提案に守は口を開けて固まってしまった。

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