第9話『おはよう、ハルトくん』

「よーし。いい感じの味付けになったぞ」


シキは死んだように寝ている。

マジで死んでいるんじゃないかと思って、

鼻先に指を当てたら息をしていたから生きてはいるらしい。


鑑定アプレイズ、ステータスウインドウ、この2つが

使えないのはワリと面倒ではある。



「まっ。文句言っても仕方ねぇ。慣れるしかねーやなぁ」


もう昼の12時か。


「シキ、疲れているんだな。毛布かけなおしてやるか」


俺が、シキのベッドに向かい毛布をかけ直そうとすると、

シキが目を覚ます。


「わりぃな。目覚ましちまったか?」


シキは首をフルフルと振る。


「うぅん。起こしてくれてありがとう。今何時?」


「今か。ちょうど12時だな、疲れているんなら寝ていていいんだぞ?」


「大丈夫……」



シキはちょっと考えたような表情になった後に、

俺に向かって言う。



「おはよう、ハルトくん」


「あいよ。おはようさん、シキ」


シキは体を起こして、ベッドから降りようとするも、

ベッドから転がり落ちそうになったので、

とっさに、俺が手を出して受け止める。



「おいおい。マジで大丈夫かよ? 一緒に病院行くか?」


「うぅん。ちょっと……立ちくらみ。ありがとう、ハルトくん」



俺はシキを担ぎながら、食卓へと向かう。

体が驚くほどほど軽い。

額を触り体温の確認をするも、熱はないようだ。



(なんだか分からねぇが……胸のあたりがチクチクしやがる。クソッ。俺は何に苛ついているんだ。シキを苦しめるこの世界にか――いや、ここは俺の世界じゃねぇ。それは出過ぎた感傷だ。俺はこの世界にとってイレギュラーな異物だ)



シキを食卓の椅子に座らせる。



「どーだ。今日は、元気になりそうな料理を作ったんだ。豚キムチだ」


「嬉しい。好き」



好き……俺じゃなくて、豚キムチのことだよな。

ははっ。ドキッとするじゃねぇか。


まぁ、メシは冷蔵庫のなかのありあわせだ。


レシピはシキの部屋の中の『簡単一人暮らし料理』

という本を参考にさせてもらった。


局所的時間制御魔法の行使により、

鮮度は食材として最高の状態にしている。



(つか、まぁ……じゃがいもとか目が出ているし、肉は賞味期限内ではあるが、ラップかけてないせいで石のように硬いし、ニラとか半分溶けかけていたからな。そのまま食材として使えるわけがないっつー感じだったな)



「かわいい音が鳴っているぞ」


シキのおなかからくぅ~っという音が聞こえてくる。


「もー。からかわないで」



赤面しているシキ、クソ……かわいい。



「ほらよ。たまご入りわかめスープも作った。ごはんもホカホカだぞ~」


「わー嬉しいよぉ。朝からこんなに食べられるなんて、本当に幸せ」


「おしっ。食卓にはメシは並んだし、それじゃ、食おうぜ!」


「うん」


「「いただきます」」」



俺とシキは手をあわせる。



シキは俺の朝食……つーか、時間帯的には昼食だが、

気に入ってくれたようだ。


冷蔵庫の生鮮食品が無くなりそうだから、

そろっと、何らかの方法で補充しなきゃいかんなー。


俺はそんなことを考えていた。

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