いつものラーメン屋で、俺はお前を待ち続ける⑧
「じゃ、リリィはそろそろ
「ま、待ってくれ。
苦し紛れに出た言葉は本当にどうしようもないものだった。
なにやらリリィは時間を気にしていた。放っておくと今すぐにでもどこかに行ってしまいそうな雰囲気だった。
だから、情景だけは紛れもなく歴戦の覇者。英雄。そんな出で立ちの彼ら、グリードファミリーをつい餌に使ってしまった。
できることなら会わせないほうがいいと、わかっているのに。
「
フッと悪そうな笑みをこぼした。
こんな惨事に至った顛末。
リリィのお説教癖が爆発するとわかっているのに。
そんな不安を他所に、グリードの子分たちは俺とリリィの前にピシッと整列した。
「「「リリィの姉御さん、チワっす!!」」」
「「「レオンの兄貴さん、チワっす!!」」」
それは予想とは大きくかけ離れていた。
俺はてっきりいつもみたいに茶化して来るのかと思っていた。
でも、これは……。
「むむっ。リリィの姉御……さん? レオンの兄貴……さん? むむむっ?」
リリィはバサッと俺のほうを勢いよく振り返ると、キラキラと目を輝かせていた。
これは嬉しい誤算だった。
「まあなんだ。悪い気分ではないだろ?」
「フッフッフ。ついにこの才たるリリィを崇める者が出てきてしまったか! これは気分の問題などではありません。……必然。そう! 必然なのです!」
あいも変わらずふざけてはいるけど、楽しそうに笑うリリィを久々に見た気がする。
そんなリリィの目を盗んで子分の一人が耳打ちをしてきた。
「(修羅場かなんかよくはわかりやせんが、兄貴さん、あんた不器用属性までもってんスか! サポートはしやすから! 乗り越えやしょう!)」
なんてことだ。
思えば、こいつらには茶化されてばかりだった。でもその茶化しに何度も救われてきた。
こいつら……!
「(ああ、さんきゅーな!)」
「(おやすい御用っす!)」
俺はひとり、強者を演じていたけど誰一人ビビった素振りはなかった。
本当に俺は救いようがねえな。
でも、感謝するぜ!!
その
「どうだ? 戻りたくなったか?」
「戻りませんッ!」
ははは。
またしても即答だった。
でも引き下がるわけにはいかない。
みんながくれたチャンス。ものにする!!
「なあ、リリィ──」
俺がさらに食い下がろうとしたのに気付いたからなのか、リリィは言葉を遮るように少し大きめの声を出した。
「やあやあ諸君! 姉御様の登場だーい!!」
「神々しいっす! リリィの姉御様!」
「なんだねなんだね~、声が小さいぞ~?」
「「「リリィの姉御さま!!」」」
「よろしい! じゃあ一列に並びなさい! 神々しい私こと、リリィ様が特別に握手をしてさしあげましょー!」
「「「おおお! 感謝の極み!!」」」
突如として握手会なるものが始まってしまった。
ははっ。なんとも臨機応変なことか。
本当に神として崇めてるのかはさておき、つまりは俺も、こういうことだったんだなと思った。
でも一人だけ、その列に整列しない者が居た。グリードだ。
今だと狙いを定めたように、真っ直ぐ俺を目がけて向かってくる。そして──。
「無茶しやがって!!」
突然のことにびっくりした。
「もうこういうのは
あぁ、そういうことか。
それはこっちのセリフだっての。
「やめねーよ。だって俺ら、仲間だろ?」
もう、この言葉以外には必要ない。
それだけで全てが伝わる。確かにあのとき、死を……ドラゴンを前にして俺たちの心はひとつになったのだから。
「はは。ははははは。だから俺は惚れちまったのかもしれねえな。兄貴に。あんた、本当にかっけーよ」
「ばーか。それはこっちのセリフだ!」
そんな俺らの様子を、握手会に飽きてしまったのか、リリィが口を開きながら見ていた。
そして、何かに気付くような顔をした。
「はっ!! び、びーえる!!??」
「違うっ!」
「はっ!! 無自覚ッ!」
「違うっ!」
場は不思議なくらい和んでいた。
俺とリリィとグリードファミリー。このメンツでパーティーを組んだら毎日こんな感じなのかな。
本当。こいつと居ると飽きないんだよな。
毎日が色づいて、笑顔が絶えなくなる。
失って初めてきづくことが、あまりにも多過ぎた。
手を伸ばせば届くかな。まだ、届くのかな。
「リリィ。俺はもっと、お前と一緒に居たいよ」
素直な気持ちがそのまま言葉として口からでる。
リリィはなにも言わずに微笑んだ。
そして、俺ではなくグリードに話しかけた。
「えーと、君、名前は?」
「え、あ、グリードっす!」
「ほうほう。グリードさんですね! レオン君をよろしくお願いします」
深々と頭を下げた。
それはなんだかデジャヴだった。
あの時とまったく同じ光景だった。
そうして俺はまた、同じように、
ただ、立ち竦むことしかできなくなった。
この先を知っているから──。
「リリィの姉御は戻ってこないんすか?」
グリードは俺に気を使ったのか見兼ねたのか察したのか、こんなこと口にした。
「はい。戻れ
戻れ……“ない“。
わかっていたことだ。でも答え合わせのように本人の口からその言葉が飛び出すと、いてもたってもいられなくなった。
何度もしつこく、届かないとわかっているのに、似たようなことばかりを言ってしまう。
俺はお前を……諦めたくない。
「戻れる! お前は俺のパーティーメンバーだ!!」
「もぉ……。どんだけリリィのことが好きなんですかぁ……。やれやれです。一方通行でかわいそーなレオン君!」
「好きだよ。大切な仲間だ。当たり前だろうが!」
「せっかくの告白ですが、ごめんなさい!」
ふざけてた。
どこまでも、ふざけた返答だった。
「おっとと、そろそろタイムオーバーです。じゃ、これで」
それは言葉の通り俺にとってもタイムオーバーを意味した。
そうして気付いたときには、最悪の行動を取っていた。もう他に、手段がないと思った。
もっと上手くやる方法だってあっただろうに──。
「行かせると思ってるのかよ」
リリィの腕をつかむのと同時に剣の鞘をスカートの端にかけた。
いつでもめくれる臨戦態勢。
もう、形振りなんて構っていられない。
「だめだよレオン君。笑えないことはしないで?」
その言葉は胸をえぐるようだった。
これは俺のエゴなのかもしれない。リリィの気持ちを考えるなら笑顔で見送ったほうがいいのかもしれない。
頭ではわかっているのに、心と体が言うことをきいてくれない。
「知らねえよ。お前、少し黙ってろ」
それはもう、殆ど脅しだった──。
どうして俺は、こうも間違ってしまうのだろうか──。
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