第5話 因縁怪獣シシオン対地球防衛隊

それは一年前のことだった。


「緊急警報。緊急警報。街に怪獣が現れました。街に怪獣が現れました」


 そんなアナウンスと共に基地内でサイレンが鳴り響き、四人がまとまって駆けまわった。

「セイジ隊長! 今日こそはあの怪獣を倒しましょう!」

 隣を走る短い黒髪の美男子に視線を送ったのは、七三分けの好青年。気合いが入った部下に対して、隊長は白い歯を見せる。

「コウタロウ。忘れるなよ。怪獣撃破に夢中になって、街のみんなに危害が及んだら意味がないんだ。本気で戦っていいのは、避難誘導が完了してからだ」

「了解です」と部下の三人の隊員は同時に首を縦に動かす。

 その中で紅一点のナオは走りながら呟いた。

「そういえば、今日は新兵器を使うんでしたね」

「ナオ。いつでも使えるように、メカニックのヒデキが最終調整をしたらしい。あの兵器を使えば、怪獣撃破も夢ではないが、使うのは、避難誘導が完了してからだ」


 それから数秒でコクピットまで辿り着いた隊員たちは、それぞれ別の戦闘機へ乗り込み、次々と発進させた。


白い雲に覆われた空の上を四台の戦闘機が連なって飛んでいく。

 その真下では、金色の毛並みを整えた四足歩行の怪獣が赤い屋根の民家を踏み潰していた。

 

 その怪獣は双方へ別れるように生えた尻尾を左右同時に叩きつけ、周囲にある民家を真っ平にしている。


 すると、近づいてくる音を察知したのか、現在進行形で街を破壊している怪獣は、鋭い二本の牙を光らせ、上空を見上げた。


 怪獣の鋭い目を上空の戦闘機の中から見ていたダンキチは、体を小刻みに震わせた。いつの間にか大きく開いた怪獣の口の中で白く光る何かが渦巻く。


「ダンキチ。退避!」

通信機から聞こえてきた隊長の声にハッとしたダンキチが翼を前へと動かす。

その直後、上空を目掛けて発射された怪獣の咆哮は、白い雲を消し飛ばした。


「あの衝撃波を受けたら、一溜りもありません。威力は山を吹き飛ばす程度のモノと推測されます」


 上空を旋回中にダンキチはコウタロウの推測を通信機越しに聞いた。それに続き、隊長の声も聞こえてくる。

「コウタロウ。あの一瞬でそんな推測ができるとは、流石だな。このエリート野郎!」


 丁度その時、上空を旋回する四台の戦闘機のパイロットたちは、年老いた男性の声を通信機越しに聞いた。


「地球防衛隊諸君。司令官だ。只今、全住民の避難及び安否が確認された。全員無事だ。繰り返す。全住民の避難及び安否が確認された。全員無事だ。地球防衛隊諸君。直ちに怪獣を殲滅せよ! 繰り返す。直ちに怪獣を殲滅せよ!」


 そんな司令官からの報告を聞いたコウタロウは頬を緩めた。

「了解。セイジ隊長。新兵器を試しましょう!」

 そう問いかけながら、コウタロウは前方を飛ぶセイジの戦闘機を見た。

 その直後、コウタロウの目の前で異変が起きた。


 目の前を飛ぶ戦闘機から黒い煙が昇り始め、コウタロウは思わず目を見開いた。

「セイジ隊長。大丈夫ですか? 応答願います。セイジ隊長!」


 慌てて隊長に通信を繋げたコウタロウの耳に届いたのは、同じように心配するダンキチやナオの声のみ。

 その間にセイジの戦闘機はオレンジ色の炎に包まれた。

 落ちていく業火の翼に追従するように、コウタロウの戦闘機は地上を目指す。

 そして、コウタロウは熱風で翼を焦がしながら距離を詰め、隊長に呼びかけた。


「セイジ隊長。脱出してください。セイジ隊長!」


 だが、何度呼びかけても反応はない。それから、数秒後、コウタロウは近くで大きな爆発音を聞いた。


 その様子を上空を旋回しながら見下ろしていたダンキチとナオは唇を噛んだ。

 目の前に広がるのは、セイジが乗っていた戦闘機が怪獣の体を押しつぶし、炎上している光景。その近くで爆発に巻き込まれて大破したコウタロウの戦闘機が残骸が散らばっている。



「あとで分かったことだが、セイジ隊長が乗っていた戦闘機には爆弾が積んであったらしい。誰が爆弾を仕掛けたのかは見当が付かず、事件は迷宮入り。そして、爆発に巻き込まれたコウタロウは、一命を取り留め、ハヤト隊員と入れ替わる形で地球防衛隊を辞めた」


 一年前の話を地球防衛隊の基地の中で刑事と聞いていたサトルは右手を挙げた。

「ダンキチ隊長。そのセイジさんが生きている可能性はあるのか?」

「ないな。遺体は焼け焦げていて身元は分からなかったと警察から報告を受けたが、あの遺体が別人のはずがないんだ。あの時、確かに周辺に住んでいる全住民は避難所にいた。あの状況で別人の遺体が現場に転がっているなんてありえない!」


「天雲コウタロウか? 地球防衛隊に勤務経験があるとかでワイドショーに引っ張りだこのルポライターだ」

 顎に手を置く刑事の問いかけに対し、ダンキチは首を縦に動かした。

「そうだが、刑事さん、今度はコウタロウを疑っているんじゃないだろうな?」

「ああ。刑事の勘がそう言っているからな!」


 そんな答えを聞いたダンキチは突然、腹を抱えて笑い始めた。

「刑事の勘か。コウタロウが怪しいっていうんだったら、俺も怪しくなるだろう。俺もコウタロウと同じようにセイジさんを尊敬していたんだからな! それに、もしヒデキ隊員が襲われた事件の動機が一年前に殉職したセイジさんの復讐だったら、怪しい人物は他にもいる。そこにいるナオ隊員とセイジさんは付き合っていたんだ!」


「ちょっと、ダンキチ隊長。今、言うことじゃないでしょ!」


 ダンキチの近くにいたナオは慌てて両手を振った。その直後、緊急警報が鳴り響いた。



「緊急警報、緊急警報。街に怪獣が現れました。街に怪獣が現れました」


 新たな怪獣が現れたことを知らせる警報を聞いたダンキチは両頬を叩いた。

 それから、サトルの目の前にあったモニターに怪獣の姿が映し出される。

 その画面を見た瞬間、ダンキチとナオは表情が凍らせた。


 金色の毛並みを整え、双方へ別れた尻尾を生やす四足歩行の怪獣。


 今、街で暴れているのは、一年前に現れた因縁の怪獣と同じだった。

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