172話 抗戦する研究者

 荒れ果てた研究所にて。


「博士!ジョン博士!」


 倒れている博士を、必死に起こす同僚の研究員がいた。


「う....うぅ.....」


「やっと目が覚めたか!」


 幾度か呼びかけると、ジョン博士は目を覚ます。


「こ....ここは.....」


 朧げな視界で周りを見渡すと、研究所の壁が所々崩壊し、欠けた瓦礫がそこら中に落ちていた。中には、仲間と思わしき人物が、瓦礫の下敷きとなって事切れている。中央のモニターも壊れ、千切れた電線からは、バチバチと電流が流れていた。


「なっ....」


 さっきまで過ごしていた空間が、いつの間にか廃墟と化している光景に、一瞬夢かと疑う博士。


「痛っ」


「大丈夫ですか博士!」


 だが、頭部から感じる痛みで、すぐさま現実だと理解させられる。手で頭部を触れると、血が付着していたからだ。


「どうしてこんな事に.....」


 状況が分からず、博士は呆然とした表情で呟くと、研究員が状況を説明し始めた。


「本部が、本部が攻めてきました!特殊部隊を投下して実力行使に出たんです!!幸い、爆撃を受けなかった数名の研究員が咄嗟に扉を閉めましたが、破られるのも時間の問題です!皆も先に向かっています!やられる前に、急いでここから脱出しましょう!」


 博士の手を引き、急いで連れ出そうとする研究員だったが、すぐさま止められる。


「無駄だ。どうせ脱出口からも来ている」


 ドドドドドドドドド


『『『ぎゃああああああああ』』』


 そう言った瞬間、遠くから銃撃音と複数人の断末魔が聞こえた。


「で、では、どうするべきなんですか!」


 挟み撃ちの状況に、絶望した表情をみせる研究員。


「牢屋のロックを全て解除するぞ。一か八かだ、魔人共をぶつけてやる!」


 そう言うと、2人は急いで地下牢へと向かう事にした。




 ★☆★☆


「ハァハァ......ハァハァ.....」


「もう少しだ」


 2人が急いで地下牢へと向かう中。息苦しそうに呼吸を繰り返す同僚の研究者がいた。顔色が、青を通り越して白となっている。


 ドサッ


「大丈夫か!」


 疲れによる息切れかと思った博士だったが、倒れた同僚の腹部を見て気が付く。


「お前.....」


「ははは.....どうやら僕は....ここまでのようですね.....」


 同僚の腹部には、ガラスの破片が刺さっていた。辿った道を見れば血の跡が付着している。大量出血でもう動けそうになかった。


「魔人薬....持ってますか?」


「あぁ、いつも3本持ち歩いている。だが何故?」


「僕が時間を.....稼ぎます....だから.....」


 質問の意味をようやく理解した博士。後ろからはドタドタと大量の足音が聞こえていた。


「2本下さい.....」


「分かっているのか?となるんだぞ」


「分かっています.....でも....時間を稼ぐには....これしか....」


「クッ。すまない」


 博士は魔人薬を2本手渡すと、同僚を置いて走り去る事にした。




 ★☆★☆


 数十秒後、後ろから戦闘音が聞こえ始めた。


『銃が効かない!?』


『な、なんだ!?あの怪物は!』


『怯むな!』


『撃て!撃て!』


「Graaaaaaa!」


 振り返らずに、走るジョン博士。


「中央のクズ共が!絶対に許さないぞ」


 目に狂気を宿しながら、急いで地下牢へと向かうのだった。

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