140話 たかる

 HRが始まろうとしていた教室ではー


「おいおい.....」


「マジかよ.....」


「.......嘘だろ」


「ねえアレ.....」


 クラスメイト達が遠巻きに、こちらを見てヒソヒソと囁き合っていた。


 何故、皆がこちらを見てくるのか。それはー


「あなた♡あなた♡」


 座っている俺の膝の上に、狂歌がいるからだ。


 横向きに座り、さっきから幸せそうに抱き着いてくる。


 あの行為をしてからずっとこの調子なのだ。


 人前で甘えるのを辞めてくれないだろうか。


 機嫌が良いのは別に構わないのだが、さっきから皆の視線が痛い。


 流石に恥ずかしいぞ。


 普段学校では、無表情でいる狂歌。よく他人を平気で冷たくあしらっている。


 そんな彼女が幸せそうな顔をしているのだ。皆が驚くのも無理はない。


 ついでに、堂々と教室でイチャついているともなれば、注目されないハズが無いのだ。


 ジィィィィーー


「いいなー。狂歌ちゃん」


「兄さん!」


「マスター。エレナも混ぜて~」


 さっきから美香・サラ・エレナの視線が痛い。


 きっと1日中狂歌の家にいた事を、根に持っているのかもしれない。


 狂歌は3人の視線に気づくとー


「独占出来るのも、正妻の特権よ♪」


 ニヤリと笑い、挑発的な笑みを浮かべるのだった。




 ★☆★☆


「あぁぁぁぁぁぁ。今日は大変な目にあった」


 学校の帰り道、俺は1人でとある場所に向かっていた。


 歩いている途中で、今日の出来事を思い出す。


 人前でも平気でイチャついてくる様になった狂歌。


 休み時間の度に、俺の席に来てはずっと甘えてくるのだ。


 おかげで男子からの嫉妬と殺気の籠った視線が凄かった。


 まぁ、あの程度何とも無いのだがな・・・・


 それをずっとしていたせいか、美香やサラも嫉妬をする訳で。


 ”傍に居られればいい”と思っているエレナも、この時ばかりは流石に嫉妬をした。


 昼休みに、3人を宥めるのは大変だったな・・・


 そしてクラスメイトの女子達だ。


『ねぇシンジ君。今度遊びに行かない?』


『私と付き合わない?』


『えー。私と行こうよー』


『興味ない』


 隙あらば何かと誘ってくる訳で、断っても次から次へと来るのだ。


 まるでゾンビのように。


『じゃ、じゃあさ!』


『セフレからでもいいよ?』


『結婚を前提に!』


 獲物を死んでも逃さないといった執念を感じたな・・・


 今日で完全に男子生徒全員を敵に回した気がする。


 慣れ合うつもりはないから別に構わないのだがな。


「やっと着いたか」


 歩いていると、今から会う人物の宿泊先についた。


 目の前の最高級ホテルを見る。


 ここで一泊すると、いくら持っていかれるのだろうか。


 数十万?それとも数百万か?思わずそう予想を立ててしまう。


 俺はホテルの中に入ると、エレベーターに乗る事にしたのだった。




 ★☆★☆


 コン コン コン


 目的の部屋につくと、ドアをノックした。


 すると、開いた扉からムキムキのSPが数名出てきた。


 いきなりボディチェックを開始させられる。


 まぁ、入室する条件にこれが入ってるから、断る事は出来ないんだよな。


 それにしても、コイツ等相変わらずゴツイな。


 190cm以上はあるだろう身長に、極限まで鍛えた筋肉。


 油断は一切せず、常に周りを警戒していた。


『入れ』


 ボディチェックが終わったのか、部屋に入室の許可を得る。


 俺は中に入るとー


『爺さん久しぶり。ちょっと金を貸してくれないか?』


 爺さんに引っ越し資金をたかる事にした。


『会いたいと聞いたから宿泊先を言ったが、それまた急じゃな.....』


 爺さんからは、困惑した声が聞こえるのだった。

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