115話 言えなかった後悔

『今日からお世話になります。』


 自宅のリビングで、両親にお辞儀をして挨拶をするサラ。もちろん英語だ。


『よろしくね。サラちゃん。』


『よろしくな!サラ。』


 両親は2人とも快く承諾した。


 こう見えて母さんは英語がペラペラだ。でなければお父さんと出会っていない。


 もしも、母さんが英語が苦手だったら2人はどうなっていたのだろうか・・・


 なんて考えているとー


『じゃあこれからは私の事は、お義母さんって読んでね!』


『お?じゃあ便乗して、私の事もお義父さんって呼んでもらおっかな!』


 サラは気が付けば両親に迫られていた。


『は、はい。お....お義父さん....お....お母さん。』


 サラは恥ずかしそうに顔を赤らめながら言うとー


『きゃあああああああ。可愛いわ!』


『言われてみたかった。その一言が!』


 両親はサラに抱き着き、黄色い声援を上げるのだった。




 ★☆★☆


『ここがサラの部屋だ。』


 サラが両親から解放された後、空いている部屋を案内する事にした。


 スーツケース2台を部屋の中に運び入れる。


『ここが私の部屋...』


『俺の部屋は、ここの隣だ。』


 部屋全体を見渡すサラに、いつでも部屋に来て良いと告げるとー


『はい!これからはよろしくお願いしますね。兄さん。』


 サラは、はち切れんばかりの笑顔を見せるのだった。




 ★☆★☆


 コンコン


 部屋で明日の学校の準備をしていると、ドアのノック音がした。


『に、兄さん。今良いですか?』


 早速来たみたいだな。


 部屋にあった荷物を全て配置し終わったのだろう。ドアを開けて中に入れると、少し疲れた様子のサラがいた。


『入ってくれ。』


『お、お邪魔します。』


 中へと促すと、遠慮気味にサラは入ってきた。


『あ、そうだ!』


『どうかしたんですか?兄さん』


 ワザとらしく声をあげると、サラは反応を示した。


『渡したい物があるから、少しの間目を閉じててくれないか。』


『わ、渡したい物?』


 そう言うと首を傾げるサラ。


『目を開けちゃ駄目だぞ。』


『わ、分かりました。』


 そう言うと、素直に目を閉じるサラ。


 だから俺はー


五感遮断ブラックアウト


 気を抜いた瞬間に、サラを気絶させることにした。


 即座に倒れる身体を抱きかかえ、自分のベッドに寝かせる。


 その隣に、異空間から未来のサラの死体を取り出した。


 これでようやくサラを、復活をさせる事が出来る。


「【融合】」


 未来と過去の肉体を融合させると、部屋は眩い光に包まれるのだった。




 ★☆★☆


 サラ・フィード視点


『あれ、ここは何処?』


 気が付くと、私は知らない場所に立っていた。


 そこは真っ暗な空間で、そこまでも続くかのではないかと錯覚を受ける程の広大さであった。


 暫くその場で立ち尽くしているとー


「あれ?どうしてもう1人の私がいるのでしょう?」


 女性のような声が後ろから聞こえた。


 けれど、きっと日本語だと思う。


 私だけじゃ無かったんだ。


 他にも人がいた事に安心し、後ろを振り返るとー


『え?』


 狐耳と尻尾が生えた金髪の女性が立っていた。


 よく見れば、その人は私にそっくりで


『生き分かれた双子です』とでも言われれば納得する程だった。


『コスプレイヤー?』


 女性の姿を見て、思わず言ってしまうとー


「これは過去の私?一体どういう状況なんでしょうか。」


 顎に手を当て、尻尾を左右に振りながら考え事をしていた。


『本物みたい。凄い!』


 その場で左右に揺れる尻尾や、狐耳を見ているとー


『ごめんね。ちょっと質問いいかな?』


 コスプレをしている女性から声をかけられた。それも英語で。


『は、はい。』


 英語を話せることに驚き、思わず身体をビクッとさせてしまったが、返事をした。


『あなたは、日本語が話せますか?』


『ごめんなさい。私日本に来たばかりで、全く分からないの。』


 正直に答えるとー


「なるほど。日本に来たばかり。つまり兄さんの両親が殺された時期ですか。」


 女性は日本語でブツブツと何かを言い始めた。


『じゃあ、あなたのお爺さんはまだ生きてる?』


『元気に生きてますよ?仕事の取引を、自分からするくらい元気です。』


 また女性が質問してきた。まだ生きてる?ってどういう事なんだろうと思った。


「お爺ちゃんまだ生きてるんだ。でも、これから死んじゃうんだよね。」


 また何かをブツブツと呟いた後、女性は有無を言わさず更に質問を続けた。


『「黒騎士」・「魔人薬」・「四天王」・「獅子王」この中で知っている単語ある?』


『ご、ごめんなさい。よく分からないの。』


 アニメの話をしているのかな?日本はそういう文化が凄いのは知ってるけど、私はそういうのには疎い。


 そろそろ質問の意図が分からずに戸惑っていると、あることに気が付いた。


『え?』


 突如目の前の女性の身体が光り、足から消え始めたのだ。


『これがどういう状況か分からないから、今のうちに言っておきます。私はあなたの未来の姿です!』


『え?』


 未来の姿?よく分からないけれど、女性は必死だった。


『多分信じられないだろうから、これだけは言っておきます!ウイリアムお爺ちゃんはガンで亡くなりました。それも、私が知らない間にです!。』


『お爺ちゃんが?え....』


『だから死ぬ前にちゃんと今まで育ててもらった感謝をして!お別れをちゃんと言って!私が言えなくて、唯一後悔した出来事だから!』


 さっきから未来の私?が何を言っているのか分からなかった。


 けれど、その必死そうな顔と声で、嘘ではない事が分かった。


 どんどん消えていく目の前の女性の身体。もはや上半身しか残っていなかった。


『うっ』


 それと同時に、知らない誰かの記憶が流れ込んできた。


 思わず頭を片手で押さえるが、激痛が止まない。


 それどころか更に痛みが増し、幻覚を見ることになった。


 お爺ちゃんがガンで、いつの間にか亡くなっていた記憶。


 紫色の入った試験管を飲み干し、魔人に変身をする記憶。


 人型の筋肉質なライオンに、身体を上下に両断される記憶。


 様々な記憶が流れ込んできた。それと同時に引いていく痛み。


 理解した。女性の言っている事が本当だという事に。


「お願い!同じ後悔は二度としないで!」


「ちゃんと言うよ。だから安心して。」


 未来の私の言っている事がようやく理解できた私は、安心させることにした。


「よかった。」


 最後は安心しきったような笑顔を見せると、消滅する未来の私。


 その数秒後に、私は意識を失う事になるのだった。

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