112話 屋上

 読者様へ:ちょっと長くなっちゃいました。


 ★☆★☆


 昼休み


「やっと飯だ。」


 午前の授業が終わった。未来では既に知っている範囲なため余裕だった。


 席を立ち移動しようとするとー


「シンジ君!一緒にご飯食べよう。」


 美香が声をかけてきた。手に弁当を持っている。それも2つ。


「抜け駆けは良くないわ!」


 参戦してくる狂歌。見ればこちらも弁当を2つ持っていた。


「おい、どういう事だ?シンジが付き合ってるのって白河さんじゃないのか?」


「ライバル参戦か?」


「いつもは別の女子達に誘われてるのに珍しいな。断ってたけど。」


「委員長変わったな。見た目も。」


「冬柴さん急成長し過ぎでしょ。」


「羨ましい。」


 2人の行動に、ヒソヒソと話すクラスメイト達。


「屋上へ行くか。」


 2人との時間を邪魔されたくなかったので、俺は教室から移動する事にしたのだった。




 ★☆★☆


 屋上


「やっぱり噂になってたな。美香。」


「だよね。ちょっと周りの対応変わり過ぎててビックリした。」


 屋上の床に座り、3人でお弁当を食べる。他に生徒はいなかった。


 朝、美香が登校すると皆から『誰だ?』と言われる始末。


「・・・・(モグモグモグ)」


「男子達の視線ってちょっと気持ち悪いね。胸をチラチラ見てくる所とか特に。」


「慣れたわ。美香も直ぐに慣れるわよきっと。」


 今まで向けられたことのない視線に、自分の胸を見ながら嘆く美香。


 それに狂歌は淡々と答えた。


「・・・・(モグモグモグ)」


「え?これに慣れてるの?狂歌ちゃん凄いね。」


「だって、シンジ以外は興味ないもの。気にしたら負けよ。」


「そ、そうなんだ。」


 真顔でそう言う狂歌。その発言に美香は少し後ずさった。


「それでどう?お弁当は。」


「どうかな?」


 2人は自分達だけが会話していることに気付き、シンジに話しかけるとー


「え?めっちゃ美味しかったよ。作ってくれて有り難う。」


 いつの間にか、お弁当は空となっていた。


 数百年ロクなものを食べていなかったシンジ。


「嫁の料理最高。」


 思ったことを正直に言うとー


「ま、また作ってあげるわよ///」


「そ、そうなんだ。良かった///」


 2人は顔を真っ赤にするのだった。




 ★☆★☆


 一方魔王城では


「ば.....馬鹿....な」


 死屍累々と化したの中で一匹の魔物が呟いた。


 血で真っ赤に染まった白衣。よく見れば、両足を失い大量に出血していた。


「こ....コレは夢....なのか?」


 血で視界の悪くなった眼鏡を外した狐の魔物は、その場で動けず只々恐怖した。


 視界の先には、赤黒い髪を持つ妖艶な美女が立っている。


 その周りには、複数体の死体があった。


 上半身は人間のようで、蛇の下半身を持つ魔物。ナーガ・クイーン。真っ二つに両断され絶命していた。


 人型の黒い鳥に、自慢の大きな翼を持つ魔物。クロウ・ジェネラル。翼と心臓をもがれ絶命していた。


 ぶくぶくに太った人型豚の魔物。オーク・ジェネラル。押しつぶされ、原形を留めずに絶命していた。


 茶色い毛を持つ人型猫の魔物。キャット・クイーン。四肢をもぎ取られ絶命していた。


 縦長の赤い瞳に赤い鱗を持つ人型竜。ドラゴン・エンペラー。身体を縦に両断され絶命していた。


 金色の立派な鬣を持つ人型獅子。ライオン・ジェネラル。毒殺され全身に血反吐をまき散らして絶命していた。


 そして中央に横たわる黒い人型狼。現魔王の捕食王グレイブは、無傷のまま絶命していた。


(まさか私以外.....全員がやられるとは....あ....アイツは一体何なんだ....)


 自分が生き延びる方法を必死に考える狐の魔物。否、『強欲のアルフォース』。


 赤黒い髪を持つ美女の行動を必死に観察していた。


「もう死んじゃったの?ちょっとだけ力を試そうと思っただけなのに。君たちって結構弱いんだね。過去の自分を探す方が苦労したよ。あっけないね。」


 周りの死体を指でツンツンして、死亡しているのかを確認している美女。


(よ...弱いだと⁉黄金世代全員と現魔王を相手して弱いだと⁉)


 その発言にアルフォースは戦慄した。自分達をまるで虫けらのように見ていたから。


「これは、マスターへのお土産にしよ!」


 そう言って美女は、黄金世代の死体を次々と異空間に収納していった。


「マスター喜んでくれるといいな!」


 美女は華やかな笑顔を浮かべると、液体と化し、グレイブの死体を覆い始めた。


 肉体が化け物の中で、あっという間に溶かされていく。


(マスターだと?ご主人様だと?こんな化け物を従える奴がいるのか!)


 アルフォースは戦慄した。目の前の化け物を、従える人物がいる事に驚いたから。


(それにこいつ、スライムではないか!最弱の魔物が何故こんなに強くなれるのだ!)


 そして興味を持った。どうすればここまで強くなれるのかに。


(兄者が殺されたのは憎い。だが、仕方のない事だ。ただ単に弱かっただけの話。)


 アルフォースは、憎しみよりも好奇心が勝った。


「これでマスターとゲットー。やったー。」


 だからー


「わ、私にも仕えさせてくれ!」


 美女が元の姿に戻るのを待ってから言った。


「あ、まだ生きてたんだね。すっかり忘れてたよ。」


 素っ頓狂な声をあげて、今更気が付いた様子を浮かべる美女。


「わ、私なら色んな知識を持っている!きっと役に立つはずだ!」


 必死に自分を売り込むアルフォース。生き延びるのに必死だった。


(このまま殺されるよりこの化け物の使える主人に、仕えた方がマシだ。)


 内心で打算を持ちながら、美女にそう言うとー


「私のマスターに仕えたいの?」


 あっちから問いかけてきた。


(食いついたぞ。チャンスはある!)


「あ、ああ。仕えさせてくれ!私ならー」


 勝機を見出したアルフォースだったが


 ガゴンッ


 言い出した瞬間、顔面を地面に叩きつけられた。


「ガハッ」


 美女に狐耳を掴まれ、顔を持ち上げられる。顔面が血だらけとなっていた。


「虫ケラノ分際デ。殺スゾ!」


 アルフォースの視界に映った美女。冷酷な表情を貼り付けて憤怒していた。


「あっ。いけない。つい怒っちゃった」


 ハッとなって我に返る美女。アルフォースは気絶しかけていた。


「マスターはね、私だけが仕えるべき存在なの。マスターとずっと一緒に居たいし、溶け合って1つになりたいくらい好きなの。」


 顔を赤く染めて嬉しそうに語る美女の顔は、狂気に染まっていた。


「私って強いでしょ?これはマスターの為なの。ずっと隣に居たいから、ずっとそばに居たいから必死になって強くなったの。」


「私を見て。人間みたいでしょ?これは未来で、人間の死体をいっぱい吸収してようやくこの姿になれたの。これもマスターの為。人間になれたらマスターはきっと意識してくれるハズだから。」


「そのおかげで子供が出来る身体になったの。素敵だと思わない?愛するマスターとの間に子供が出来るの!」


 次々と1人で一方的に話していく美女。


「別にマスターに、他の女性メスが居たっていいの!少し嫉妬はするけれど、マスターは『もう離さない』って言ってくれたから。そばに居るだけで幸せなの!だからー」


「わ、私ならー」


 止まない話に、アルフォースは話を途切れされようとするがー


 ガゴンッ


「ガハッ」


「今話シテル途中」


 また顔面を床に叩きつけられた。大量出血で既に意識が朦朧としているアルフォース。


「ああ。もうすぐ死んじゃうんだね。だから必死なんだ。じゃあ簡潔に言うね」


 エレナはニッコリと笑うと


「身ノ程ヲ弁エロ」


「ま、待ってくrー」


 ガゴンッ


 エレナは、命乞いをする前にアルフォースの頭を叩き割った。


 周囲に飛び散る血液。エレナの顔に血液が付着した。


「お土産が1つ増えたー」


 その場で喜んだ後、異空間に収納するエレナ。


「今から帰る。待っててねマスター!」


 そう言うと、エレナはその場に魔力を放出し、空間をこじ開けるのであった。

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