90話 遡行する世界

 魔法を発動させた。


 その瞬間、異空間を通ったかのように知らない次元通る。


 浮遊感を感じる。これが過去を遡るという事なのか。


「マスター。」


 不安そうな表情を浮かべるエレナ。きっと初めての経験で緊張しているのだろう。


「大丈夫だ。」


 だから抱きしめた。


 万が一何かがあった時に守れるようにするために。


 これから過去を書き換えるのか・・・


 思い出す。あの日全てを失った自分の姿を。



  何時ものように変わらない日々を送っていた。


 朝起きて学校に行く。家に帰って勉強して寝る。


 この繰り返しであった。


 今日も変わらず、平凡な一日を過ごすと思っていた。


 そう思い込んでいた。


 しかし幸せは、ある日突然奪われる。


 何の兆しもなく唐突に。


 あの時、もう少し早く帰ることができれば、なにかを変えられたのかも知れない。


 可能性はあったかも知れない。


 しかし、もう時は戻らない。


 こちらの意思は関係ないとばかりに、過ぎ去っていくのだから。


 あの日、学校を休み、家にいれば良かったのだろうか。


 それとも、早く学校から帰れば何かを変えられたのであろうか。


 その答えは、今でも分からない。


 ただ、分かっているのは、あの時の俺は無力であったということだけだ。



 ーーでも、今は違う。俺は更に強くなった。


 時さえ操れるように、巨獣さえ屠れるようになった。


 だから、今度こそは守ろう。


「大切な人たちを。」


 次元に出口が見え始めた。


「ここが出口か。」


 その瞬間、光が差し込んだ。


 エレナを抱きしめ、覚悟を決めて次元を突破したのだった。



 ★☆★☆



 パリィィィィン



 ガラスの割れる音がする。


 これが次元を突破したという事なのだろう。


 気が付くと、浮遊感は既に消えていた。


 そして出た先には見慣れた景色が。


 そう目の前には


 俺の家があったのだった。

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