55話 魔水の泉

 凄い高さから『魔水の泉』に落とされた。


 身体は動かせない。憤怒の影響で、理性を失った時に体を酷使しすぎた。


 さっき無理やり動かしていたが、もう限界だ。


 深く深く底の方に沈んでいく。


 傷口から体内に魔水が浸入してくる。大量の魔水が入ってきた。


 その瞬間意識が飛びかける。身体中の血管が物凄く熱いのだ。血液が沸騰しているようだ。


 純度の高い魔力に体が耐え切れず、身体が表面からしていく。


 魔人薬の比ではなかった。あまりの痛みに、もがき苦しんだ。


 それと同時に、魔力が


 気が付いた俺は、直ぐに再生の方に魔力をまわした。崩壊より、再生の方が僅かに勝っていたからだ。


 飲み込んだ魔水で体が崩壊し、回復した魔力で直ぐに体を再生させる。


「再生」と「崩壊」を繰り返す。何十回も、何百回も何千回も、同じ作業を繰り返す。


何度も何度も何度も何度も何度も


 生きるために、仇を取る為に、俺はただただ静かに耐えた。


 心で呪詛を唱えながら。どのように復讐をするか。獅子王への恨みだけで痛みに何度も耐える。


 


 触手野郎に復讐を果たして冷めていた狂気が、熱を帯びて目を覚ましていく。


家族を殺された時の比では無いほどの苦しみを味わう。


 どのくらい経ったのだろうか。


 何度か気絶しかけると、無いはずの鼓動が聞こえた。


 魔力が溜まり、傷口と心臓を再生させることに成功したのだ。



「【殺意】を習得しました。」


「【狂気】を習得しました。」


「【冷徹】を習得しました。」


「【無呼吸】を習得しました。」



 と脳内に表示される。


 さっきの戦闘で受けたダメージも回復した。もう動かせる。


 身体も、前より丈夫になった気がする。再生と崩壊のせいだろう。


 そう疑問に思っていると異変が起きた。幻聴が聞こえたのだ。


『力ガ欲シイカ?』


 何度も同じ言葉が聞こえる。誰なのだろうか。脳内に直接誰かが話かけてくるのだ。


『力ガ欲シイカ?』


 目を見開き周りを見渡すと、奥に人影のようなものがあった。


 それは


 頭部と体は切り離されていて、すでに死亡している状態だ。


 そいつが話かけているのだろうか。


「ああ。欲しい。あいつを殺すだけの力を!地獄の苦しみを味合わせるだけの力を!」


 誰かは知らぬ相手に、最後の希望を縋りながら、心に黒い絶望の炎を宿し答える。


『ナラバ喰ラエ。私ヲ喰ラウノダ。ソレシカ方法ハ無イ。』


 泳いで死体に近づいた。捕食する際に口から何度も魔水が入ってくるが構わない。


 痛みに耐えながら全て捕食した。


 捕食し終えると膨大な力と、


 頭が割れそうなほどの痛みを感じる。発狂死をするかと思ったほどに。



「【不眠不休】を獲得しました。」


「【念話】を獲得しました。」


「【咆哮】を獲得しました。」


「【俊足】が【神速】に進化しました。」


「【鉤爪】を獲得しました。」


「【狼化】を獲得しました。」


「【体力自動回復・極】が【体力自動回復・超】に進化しました。」


「【魔力自動回復・極】が【魔力自動回復・超】に進化しました。」


「【状態異常耐性】が【状態異常無効】に進化しました。」


「【風魔法】を獲得しました。」


「【土魔法】を獲得しました。」


「【光魔法】を獲得しました。」


『【闘気・極】が【王気】に進化しました。』


『【魔力操作・極】が【魔力操作・超】に進化しました。』



 痛みが消えると、力が漲ってきた。


 流れてきた記憶で分かった。本当の【捕食】の使い方を。


「【竜化】【捕食】最大解放!」


 その瞬間、魔王城の横にある『魔水の泉』は消失したのだった。




 ★☆★☆


 玉座の間に座る獅子王。


「俺様も昔、好奇心で魔水を数滴飲んだことがあったな。死にかけたが。」


 昔を思い出し、独りごちる。


「まぁそのおかげで強靭な肉体を得ることが出来たんだがな。」


 懐かしいと思い、表情を緩める獅子王。


「はぁ。くそったれが。配下が殆ど死んじまったじゃねーか。もう俺様が人間界を直接侵略してやるか。面倒だがな。」


 そう言って立ち上がろうとすると、突如城が揺れた。


「あ?何だ?」


 城の空いた壁からが入ってきた。


 上手く躱す獅子王。


 竜の手は、3人の死体を捕まえると、手を引き抜いた。


「何だありゃ。」


 そう思っていると近くで膨大な魔力を感じた獅子王。


「マズいっ。」


 急いで防御の構えをとる。


 その瞬間、城は黒い炎に包まれ、崩壊するのだった。




 ★☆★☆


 俺は『魔水の泉』を捕食した。


 俺は理解していなかったのだ。使


 それと同時に謎が解明した。。それはブレイブに近しい人物を喰らう事で足りない知識を補ていたのだ。


 原理は分からないが、本人を捕食して理解した。


 竜化し、城の中にある3人の死体を回収する。


 闇魔法の異空間で3人を収納した。ここならば時間は止まっている。腐敗を防ぐことが出来るからだ。


 収納し終えると崩壊した城の中から獅子王が出てきた。


「あ?何だこのでけぇ黒竜は。」


 瓦礫を吹き飛ばしながら、イラついた表情で出てきた。


 獅子王の姿を見た瞬間に、膨大な殺気が周囲にあふれ出る。


 楽には殺さない。俺は人間の状態に戻った。


「な!?まだ生きてたのかよてめぇ。いい加減死にやがれ!【王気】【傲慢】全力解放!」


 全身に黄色く輝くオーラを纏う獅子王。


 身体が重く感じた。力が上手く入らない。


「【捕食】全力解放!」


 自分でも驚くぐらい低い声が出た。王気と傲慢の効果が突如消える。


「な!?お前何しやがった!」


 原理は簡単だ。あいつの【王気】と【傲慢】の効果を喰らった。ただ、それだけだ。


 さっきの戦闘で【闘気】を使い果たした俺は、今ので回復した。


「だったら!【獅子化】全力解放!」


 筋肉が盛上り、4足歩行の巨大な獅子と化した。


「俺様をこの状態にさせたこと。後悔するんだな!」


 濃密な殺気を当ててくる獅子王。だが無駄だ。


「【強欲】全力解放。」


 4足歩行の巨大な獅子から、元の姿に強制的に戻る。


「な!?お前、また何かしやがったな!」


 射殺す勢いで睨みつけてくる獅子王。


 。それが強欲の能力だ。


 こうなった相手は裸も同然。魔力操作すら使えなくなる。


「【王気】全力解放....」


 全身に青黒いオーラを纏う。


「な、何なんだよお前は!」


 さっきから続く不可解な現象に恐怖を感じたのか、後ずさる王。


「楽には殺さねぇよ....安心しろ....」


「く、来るんじゃねー。」


 狂気を宿らせたシンジを見て


 その日初めて獅子王は恐怖したのだった。




 ★☆★☆


「ねぇねぇ。その人殺さないの?」


 後ろから誰かに声をかけられた。


「誰だ?」


 振り向くと、人型の赤いドロドロした人型の魔物がいた。


(誰だこいつ。)


「えー私の事覚えてないの?ショックだな~」


 と言いながら1匹の赤いスライムとなる。


「ああ....お前か....で?何の用だ....」


「えっとねー。その人食べないならさ。頂戴?」


 皮をはぎ取られて、四肢を失ったを指さす赤スライム。


「た.....たす......け....てく...れ」


 それは、泣きながら懇願する獅子王だった。


 数日間、拷問しては再生させて元通りにする。


 この繰り返しで地獄を何度も味合わせた。


 プライドがズタボロにされて、命乞いまでしてきた。


 数日前まであった王としての覇気は既に消えていた。


「条件がある....」


「え、なにかな?」


 嬉しそうに答える人型スライム。


「『魔水の泉』の場所全てと、『朱雀』の知ってるか?」


「うーん?『魔水の泉』は全ては分からないけどね。『朱雀』の居場所なら心当たりあるよ!」


 嬉しそうに答える人型スライム。


「本当か?嘘だったらタダじゃあ済まさねぇぞ....」


 濃密な殺気を赤スライムに飛ばして、こっそり『念話』を発動する。


「ひっ。そ、そんなに殺気飛ばさないで。怖いよ。本当だって信じて!」


『念話』は便利な能力だ。心で指定した相手と会話するだけの能力だが、心で話すということは、相手の心が読めるという事だ。


 相手の言った言葉が、本当か嘘か見抜くことが出来る。


 身震いをする人型スライム。どうやら本当のようだ。


「居場所なら知ってるよ!本当だよ!」


 そう答える人型スライム。嘘はついていないみたいだな。


 捕食王を喰らった時に、巨獣を討伐する理由を知った。


 それは、生を司る『朱雀』を喰らうことで、自分を不老不死と化すことが目的だったのだ。


(まぁ、そのせいで反逆されたんだから元も子もないよな。)


「知ってるならいい。ちゃんと居場所を教えろよ。」


「うん!ちゃんと教えるよ。じゃあ食べてもいいよね?」


 嬉しそうに答える人型スライム。


「そいつの能力はあらかた奪ったからな。好きにしろ。」


「やった~」


 嬉しそうに言うと、体を分裂させて獅子王に覆い始めた。


「や.....やめ...てくれ..」


「やだ~」


 泣きながら懇願する獅子王だったが、赤スライムは聞く耳を持たず、覆いかぶさった。


 じゅわじわと血肉が消化されていく獅子王。暴れて抵抗するが無意味だった。


 そのまま数分もかからず、赤スライムに食べられてしまったからだ。


「ふぅー美味しかった。」


 ポンポンとお腹をさする人型スライム。


「ところでさー。何で『朱雀』を探しているの?」


 疑問に思ったのか訊ねてくる赤スライムに。


「決まってんだろ。。」


(復讐は果たした。待ってろよ。狂歌、美香、サラ。俺が絶対に生き返らせてやるからな。)


 シンジは巨獣討伐のため、さらなる力を求めて魔界を旅することとなるのだった。



 3章完結です。次回4章巨獣討伐編をお楽しみに。ちゃんとハッピーエンドまで持っていくので安心してください。

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