48話 追跡者
変身した状態のシンジの周りには、血の鉄臭い匂いが周囲に充満していた。
死体が山となり、ゴロゴロと積み重なっている。
蜂の巣にされ、槍のようなもので体中を貫かれて死んでる者。
鉤爪のようなもので切り裂かれ、真っ二つにされている者。
拳で殴られ、原形をとどめていない者。焼け焦げている者もいた。
皆殺しだ。全て狂歌達がやった。
人間界に逃げ込んでくる奴らよりは強いと思うが、今の俺らからしたら誤差の範囲だな。強くなり過ぎた。格下は所詮格下だ。
(そろそろ鬱陶しいな。)
そう思わずにはいられなかった。
城に向かうたびに、ちらほらと雑魚の魔物を見かけるようになった。
知能が低いせいなのか、それとも魔力を隠蔽して行動をしている俺達を格下と勘違いして、攻撃を仕掛けてきたのかは分からない。両方かも知れない。
だが、どうでもいい。攻撃を仕掛けてきたのはあちらの方だ。
俺達に殺されても文句は言えないだろう。
「魔力を隠蔽するの辞めるか?マジで鬱陶しいんだが。」
そろそろ鬱陶しいと思った俺は3人に問いかけた。
「駄目ですよ兄さん。隠蔽しないと魔王に多分バレますよ?それにさっきの魔力探知で怪しまれてるかもしれません。」
「うちも反対かな。王に奇襲を仕掛けるなら隠蔽しておいた方がいいかもね。」
サラと美香に反対されてしまった。
(まぁ、反対されることは分かってはいたんだがな。)
ハァとため息を吐きつつ移動を開始することにした。
(大分城まで近づいたんだ。鬱陶しいがもう少し頑張ろう。)
そう思っていると、狂歌がさっきから違う方角を見ていることに気が付いた。
「狂歌どうかしたか?」
「気のせいかしら?さっきから誰かに見られているような感じがして。」
と狂歌は周りを警戒しながら答えた。
「あぁその事か。気にすんな。」
枯れた木の陰からこちらの様子をうかがってくる存在がいる。
「隠密」と「気配遮断」を使って観察していることに前から気付いていた。
様子をうかがっているだけで一切攻撃はしてこない。敵意も無かった。
こちらに何も害は無いため、放置することにした。
「もう、行くぞ。」
倒した魔物は捕食しない。格下ゆえに経験値が少なく、能力も微妙である為だ。
俺は3人に声をかけ出発する。
魔力で加速してその場を後にしたのだった。
★☆★☆
惨殺死体が放置された場所。
そこでは、次々と赤いスライム達がヒビ割れた地面から現れ出ていた。
スライムがそれぞれ死体に覆いかぶさると、瞬く間に肉体が溶けていく。
数十秒後には骨すら溶かしきると、死体の山はその場から消えていた。
赤い魔物達が一斉に動き出し地面を這いながら、一カ所にウネウネと集まっていく。
人型に姿をとどめると
「凄く強いね。特にあのオス。私の仲間になって欲しいな。」
そうつぶやくと一瞬でドロドロに溶け、ヒビ割れた地面に潜っていくのだった。
★☆★☆
「よし。近くまでついたな。」
魔王城はもう目の前だった。もう1キロも無いだろう。
(それにしてもでかいな。)
黒い色の城だった。城の真横には、でかい泉のようなものがある。
遠目に見ても沢山の魔物が城の中にいるようだ。
そして、城の中心から感じる膨大な魔力。
魔王がそこにいるのは明白だ。現在、城から近い崖の上で観察していた。
ここまで来るのに、ずっと走っていた。身体強化で少しばかり魔力を使い過ぎた。
現在、休憩中である。
「それにしても【魔力自動回復・極】って凄いな。」
この便利な能力に思わず3人に声をかけてしまった。
「ええ私も思っていたわ。1分間で魔力が40%回復するんだもの。」
「凄いよね。」
と狂歌と美香が反応してくれた。
「兄さん。あの泉やばくないですか?魔力濃度が濃すぎます。飲んだら死にますよ?これ。」
城の横にある湖を指さし警告するサラ。
遠目から見ても何の変哲もない色の水だったが、魔眼で見てみると真っ黒な色をしていた。
「本当だな。全員あそこには近づかないようにしろよ。あそこはヤバい。」
真剣な表情で、警告すると全員が息を飲んだのが分かった。
その後、軽く休憩を済ませると魔力が全回復した。
「よし。攻撃を仕掛けるぞ。反撃開始だ。」
シンジ達は変身すると、崖から飛び降りて魔王城に向かうのだった。
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