40話 死闘

 サラ・フィード視点


 黒騎士が急加速し、隻眼竜の目を抉り取った。


 一瞬の判断の遅れで、視界を失った隻眼竜。


 ダルファーは一瞬で片目を再生させ、口から黒炎を吐き出した。


 至近距離で黒炎を浴びた兄さんは


「GYAAAAAAAAAAAAA」


 と奇声を発しながら暴れのたうち回った。


 それにすかさず追撃をする隻眼竜。


 兄さんを右足で蹴っ飛ばした。


 吹き飛ばされ、建物を何件も貫通して、ようやく止まった。


「兄さん!」


 私は急いで駆けつけようとしたけど、必要無かった。


 兄さんが立ち上がったからだ。


 片腕は折れ、黒炎によって皮膚は溶かされていた。所々鎧が剝がれ落ちている。


 ボロボロの姿だった。痛々しい姿だった。


 でも、右手に持っていた隻眼竜の赤い目を食べると、少しずつ傷が治っていく。


 突如奇声を発しながら左目を抑える兄さん。


 左目に赤い光があった。目も再生したのだろうか。


 傷が全てが再生すると


「GAHAHAHAHAHAHAHA」


 笑い声を発してまた隻眼竜に戦いを挑んでしまった。


「兄さん...」


 兄さんがと感じたのは私だけなのかな。


 心に不安を感じるサラであった。




 ★☆★☆


 暗い空間を1人歩き続けるシンジ。


「どこだよここ。ここに来る前に俺何をしてたっけ。」


 頑張って思い出そうとするが


 ズキン


 謎の痛みが邪魔をしてくる為思い出せずにいた。


 そうしていると突如左目に痛みを感じた。


「痛て。なんだ?一体何がおきt」


 痛みを感じて左目を抑えていたが、手を離すと治っていた。


 なっていたのだ。


「嘘だろ。何で治ってるんだよ。」


 何もしていないのに、突如左目が見えるようになって戸惑うシンジ。


 戸惑っていると、真っ暗な空間に突如魔物が現れた。


 黒い鎧を全身に纏い、肥大化した筋肉。3メートル級の魔物


 


「GYAHAHAHAHAHA」


 と奇声を発するとこちらに襲いかかるのだった。




 ★☆★☆


「しぶといな。半端物が!そろそろくたばるがいい。【闘気・極】全力解放!」


 本気を出したのだろう。奥の手の一つである闘気を使った。


 隻眼竜は全身に赤いオーラを纏い始めた。


 それまで互角だった両者の均衡が崩れる。


 一方的に攻撃され、成す術も無くやられる黒騎士。


 殴られるたびに鎧が砕け、ガードしていた腕がとうとう千切れる。


 全身ボロボロだ。黒騎士は膝をついた。


「今度こそ死ね。」


 隻眼竜が頭部目掛けて腕を振り下ろそうとした時だった。


「KISISISISISISISI」


 黒騎士が、突如笑い出した。


 そして、迫りくる一撃を片手で止めた。


「貴様...舐めた真似をしてくれるな。今まで力を温存していたとはな!」


 いつの間にか、全身に青いオーラを纏っていた黒騎士。


 今度は黒騎士の反撃する番であった。




 ★☆★☆


 冬柴美香視点


「シンジ君...」


 何故だろうか。何時ものシンジ君じゃない気がする。


 あんな戦い方、あんな笑い方シンジ君は絶対にしない。


 一体彼に何が起きたのだろう。


 まるで何か別のモノになってしまったみたいだ。


 そう思わずにはいられなかった。


 私達は戦いの邪魔にならないように、距離を保っていた。


 いつでもフォローが出来るように。いつでも助けられるように。


(お願いシンジ君。勝って。)


 美香は、黒騎士と隻眼竜の戦いを見守るのであった。




 ★☆★☆


「鬱陶しいぞ。半端物が!」


 無傷の黒騎士に対して、血だらけのダルファー。所々鱗が砕けていた。


 全身血まみれで、もう再生は出来ていなかった。再生で魔力を使い過ぎたからだ。


 黒騎士を攻撃しても、必ず腕や足を噛みちぎられ、傷を治されてしまう。


 その度にこちらは魔力を消耗するのだ。


 その繰り返しがもう56回は続いている。あと数回繰り返せば魔力は無くなる。


 その前に始末をすると決めた隻眼竜は、四つん這いになり、更に奥の手を使った。


「【憤怒】全力解放!」


 そう言うと、ダルファーの身体が突如肥大化し始めた。


「これを使えば、もう誰にも止められはせぬぞ。奥の手を使わせたこと。地獄で後悔するのだな。」


 と言いながら、腕が、足が、尻尾が、翼が生え身体全体の筋肉が盛上る。


 ダルファーは体長6メートルほどの赤竜と化すと


「GAOOOOOOOOOOOOOO」


「GAAAAAAAAAAAAAAAAAA」


 お互い咆哮をあげながらぶつかり合うのだった。




 ★☆★☆


「ハァハァ。強すぎる。」


 息も絶え絶えな様子でシンジは正面を見据えていた。


 目の前には無傷の3メートル級の黒騎士がいた。


 さっきから攻撃をしても一切通用しない。


 それどころかこちらが一方的にやられているだけだ。


(マズいな。刀が無いと勝てない。あいつに壊されたばかりなのによ。......ん?あいつって誰だ?)


 いきなり頭痛がした。


(竜?隻眼?)


 頭が割れそうなほどの痛みを感じた。


 そして失っていた記憶を思い出す。


(そうだ。俺は、ダルファーと戦っていたんだ!)


 刀が無いことに気付いたおかげで、ようやく思い出すことが出来た。


(ここから出ないと。狂歌達が俺を待ってる。早くこいつを倒さないと駄目だ。)


 俺は魔力で身体強化して、苦戦していた偽黒騎士に肉薄した。


 偽黒騎士の攻撃を躱し、全力で首を絞める。必死に抵抗するが、ガッチリとつかむ。


「絶対に離さないぜ。」


 俺は『捕食』した。無理やり頭部を噛みちぎる。相手が抵抗し、必死に腕で掴み掛かってくるが関係ない。


(全てを喰らい尽くす。)


 そこからは早かった。何度も喰いちぎり、何度も抵抗してきた。


 俺に喰われ続けていた偽黒騎士はその内、抵抗することを辞めた。抵抗しても無意味だと察したのだろう。


 俺は相手を喰らい尽くすと、突如光が暗闇の世界を照らした。


(ま、眩しい。)


 あまりの眩しさに思わず目をつぶってしまう。


 気が付くといつの間にか光は止んでいた。目の前には狂歌達がいる。


 目線が高いとなと思ったがすぐに元に戻った。


 3メートルはあった視界が一気に縮む。俺の肥大化していた部分が一気に灰と化し、塵となって消えた。


 強制的に人間の姿に戻ったのだ。


 そして、いつの間にか倒していたのだろう。


 俺の手には、あったのだった。




 ★☆★☆


「ご、ご覧ください。竜が巨大化しました。果たして黒騎士は勝てるのでしょうか?」


 赤竜と苦戦しながら戦う黒騎士。


「黒騎士不利です。負けてしまうのでしょうか。」


 焦りながらリポーターは解説する。


 しかし、杞憂だったようで、黒騎士がすぐに赤竜の首を引きちぎった。


「か、勝ちました。黒騎士達の勝利です。」


 嬉しそうに答えるリポーターであった。




 ★☆★☆


(俺いつダルファー倒したんだ?)


 と疑問に思っていると


「あなた?」


「シンジ君?」


「兄さん?」


 気が付くと、全員に疑問形で呼ばれてしまっていた。


「おい。なんで全員疑問形なんだよ。」


姿。」


 代表して狂歌が答えた。美香とサラはうんうんと頷いている。


 美香が闇魔法で異空間から手鏡を取り出して、渡してきた。


 鏡を見るとそこには、


 黒髪に白のメッシュの入った、赤目と青目のオッドアイの人物がいた。


「は?これが俺なのか。」


 思わずつぶやくと、全員がうんうんと頷いてきた。


「まぁ何でもいい。とにかく捕食するぞ。」


 気にしないことにした。考えたらダメな気がしたからだ。


 俺たちは全員でダルファーを捕食した。


「美味いな。例えが見つからない。流石は竜の肉だ。」


 捕食し終えると膨大な力が流れ込んできた。



「【憤怒】を獲得しました。」


「【魔装】が【竜装】に進化しました。」


「【竜化】を獲得しました。」


「【竜眼】を獲得しました。」


「【威圧】を獲得しました。」


「【体力自動回復・極】を獲得しました。」


「【魔力自動回復・極】を獲得しました。」



 みんなは何故か竜の付く能力を手に入れることが出来なかった。


 何故だろうか。


(うん。分からん。)



『【闘気】が【闘気・極】に成長しました。』


『【超速再生・極】が最終派生【神速再生】に進化しました。』



 俺たちは四天王を全て倒した。


 そして皆それぞれ進化し、俺は王級になったのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る