第195話

「まぁ、ことが事だったからさ、話すに話せなくてごめんね」


「いえ、私は全然……でもあの……」


「ん?」


「あんまり無茶をしないでください」


 そう言う彼女の目はどこか不安そうだった。

 確かに彼女の言う通りだな……。

 まさか年下にそう言って怒られるなんてな。


「あぁ、わかったよ」


「本当ですか?」


「そんなに俺って信用ないかな?」


「いえ、信用はしています。でも島並さんは知り合いや友達が助けを求めていると、無理をしてでも助けようとしますから」


「あぁ……それはまぁ……」


 まさか城崎さんにそんなことを言われるなんてな。

 全く、年上であり道場でも兄弟子である俺よりも彼女はしっかりしてるな。


「大丈夫、もう俺は一人で無理はしないよ」


「約束ですよ?」


「あぁ、約束するよ」


 俺が笑顔で彼女にそう言うと、彼女はなぜか俯いてしまった。

 どうやら城崎さんにも俺は多大な迷惑を掛けてしまったらしいな。

 

「あ、あのもう一つ聞きたいことあるんですけど……」


「え? 何かな?」


「あの……島並先輩ってその……と、年下ってどう思います?」


「え? 年下?」


 何がだ?

 何を思って年下をどう思うって言ってるんだ?

 まぁ、普通に考えて恋愛対象としてってことか?

 

「まぁ、ありだけど……流石にあんまり下はな」


「そ、そうですか……ありがとうございま」


「なんでそんなことを?」


「え!? あ、いや……た、ただの雑談ですよ! 雑談!」


「あぁ、そっか……まぁでも好きだったら年齢なんて関係ない気がするけどね」


 俺もいつか彼女が出来たりするのだろうか?

 仲良く一緒に買い物に行ったり、映画を見に言ったり。

 あぁ、ダメだあんまり想像できない。

 まぁ俺にはまだ彼女とかそういうのは早いな。


「年齢なんて関係ない……ですか」


「あぁ、好きになったらそんなの小さい事だろ? 大事なのはお互いの気持ちだよ」


「じゃ、じゃぁ! もし私が島並さんを好きだと言ったら……どうしますか?」


「え?」


 そう聞いてきた彼女は先ほどまで俯いていた顔を上げ、真っすぐに俺の目を見てそう言った。

 城崎さんから好きと言われたら?

 なんでそんなことを言うんだ?

 でも、城崎さんは良い子だし、可愛いし、きっと俺は嬉しいだろう。

 まぁ、言われたらなんだけど。


「あぁ……嬉しいよ。付き合うとかそう言うの抜きにして、多分真剣に好意を伝えられるのは嬉しいと思う」


「そ、そうですか……すいません変な事を聞いて」


「いや、別に全然良いよ。なんでそんなことを聞くのかなって思ったけど」


 そう言うと城崎さんは俯き、自分の服の裾を掴んで俺に言う。


「……そ、そんなの……好きだからですよ」


「え?」


 彼女がなんて言ったか、俺は一瞬わからなかった。

 彼女の言葉を俺は理解できなかった。

 好き?

 好きってなんだ?

 同じ道場の仲間としてってことか?

 でも、なんでそんなことを今言うんだ?


「………えっと……それってもしもの話じゃ……」


「じゃないです! 私は……島並さんが好きです!!」


 周りは真っ暗で彼女が今どんな顔色をしているかなんてわからないはずだった。

 しかし、なんでかその時だけは彼女の顔が林檎のように真っ赤になっているのが何となくわかった。

 

「ずっと……思ってました……多分最初に出会ったあの日から、私は島並さんが好きなんだと思います」


「う、うん……」


「でも、島並さんは優しいから……みんなに好かれるから……どんどん不安になって、今日二人きりになるチャンスがあったらずっと言おうと思ってました」


 彼女はそう言いながら小さく震えていた。

 きっと相当な覚悟だったんだろう。

 そうでなければ、この子が涙を流すはずがない。

 城崎さんが勇気を出して告白をしてきたなら、俺がやるべきことはただ一つ。

 彼女に返事を返すことだ。

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