第181話

「おい、コラ平斗! さっきの話どういうことだ!」


「せ、先輩!? 先輩ってマジの変態だったんですか!?」


「お、落ち着いてくださいよ茜さん……」


 茜さんは俺の胸倉をつかんで鬼のような形相で俺に迫ってくる。

 

「ち、違うんですよ……あれは不幸な事故で……」


「お前は何回事故を起こすんだ! 私の時も事故とか言ってたよな!! もうあれもわざとなんじゃないのか!」


「ほ、本当に……事故だって……」


 茜さんはそう言いながら、俺の胸倉を掴んで前後に揺さぶってくる。

 く、くるしぃ……。


「先輩! 見たんですか? 本当に見たんですか!?」


「だ、だから……事故だって……」


「お二人とも落ち着いてください! あれは本当に事故だったんです!!」


 茜さんに揺さぶられる俺を見て、城崎さんが茜さんを止めに入ってくれた。

 流石城崎さんだ、この二人とは違って優しい。


「見られましたけど、忘れてくれるって言ってましたから!!」


 でもこの子は時に純粋過ぎて俺を泥沼にハメてくるんだよなぁ……。


「おいコラ平斗! あれほど城崎さんに手を出すなって行ったのにぃ~」


「いててて!! 痛いです! 痛いですって茜さん!!」


「うわぁ……先輩マジですか……」


「だから別に故意に覗いたわけじゃなくてだな!!」


「マジで変態先輩だったんですね……」


「やめろその目! だから違うんだよ!!」


 はぁ……やっぱりこの二人を相手にするのは面倒だ……。

 どうやってこの場を乗り切ろうかと考えていると、家の前にいかにも金持ちが乗ってそうな黒塗りの車が止まった。


「この話はあとだ、多分光音が来た」


「あ、コラ平斗!」


「先輩! てか光音って誰?」


 車からは案の定山ノ内さんが下りてきた。

 しかし、いつものメイド服姿ではない。

 夏らしい露出の多い私服姿だった。


「なんて恰好してんすか? いつものメイド服は?」


「こんな暑いのにメイド服なんて着てられると思います? それともメイド萌の変態なんですか?」


「違いますよ。良いんですか? これも仕事でしょ?」


「良いんですよ。お嬢様と旦那様からも許可はいただいているので」


「まぁそれなら……にしても露出多くないですか?」


「熱いんですよ、こんな暑いのに布面積が広い服なんて着てられません。何だったら水着で着たかった」


「アンタ、やっぱりアホなのか?」


 この暑さで山ノ内さんの頭もやられてしまったらしい。

 そんな話をしていると今度は車から光音が下りてきた。


「久しぶり……」


「おう、久しぶりだな。悪いな大勢で」


「全然いい………」


「……大丈夫か? この前の事とか……」


「うん……平気」


「そうか、なら楽しもうぜ」


 俺はそう言いながら光音の頭を撫でる。


「ほぉ……女性の髪にそんな簡単に手を……」


「え? あ、いや……別に俺は下心があったわけじゃ……」


 つい手が出てしまっただけなのだ。

 いや、それも本当はダメなのだが……。

 なんか光音の事は守ってばっかりだったから、同級生でも妹みたいな感覚なんだよなぁ。


「わ、悪い……嫌だったか?」


「ううん……大丈夫」


「そ、そうか」


 光音はそう言って俺に優しく微笑みかける。

 はぁ……よかった。

 また変態呼ばわりされたらたまったもんじゃないしな……。


「連れて行く方々はこれで全員ですか?」


「はい、これで全員です」


「では車にどうぞ、後ろに車が来ていますので別れてお乗りください」


「わかりました」


 こうして俺達の無人島旅行はスタートした。

 しかし、この時俺はまだ予想していなかった。

 この旅行で起きる大変な出来事を……。1

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る