第75話

「え……な、なんでですか?」


「誰かを助けても、自分が不幸になったら元も子もないだろ? 平斗は……あの事件さえなければ、あんな噂を広げられることも無かったんだ……」


「な、なんで……島並さんは分かっていて誰かを助けたんですか? じゃ、じゃぁ……まさか島並さん……その人の事を……」


 初白さんは何かに気がついたらしい。

 結構勘が良いのかもしれないな。

 

「君の想像してる通りだよ……平斗はその子にそう言う感情を抱いてたから……あんな事をしたんだ……それなのにあの女は……」


 今思い出しただけでも腹が立つ。

 平斗があの子の為にどれだけの事をしたかも分からず、あの女は手の平を返して平斗を目の敵にした。

 平斗はそうなることを分かった上でそれをした。

 あの女の事を思って、そうしただけに平斗が一番心のダメージを受けただろう。


「……そうなんですか」


「あぁ……もうこの話はやめよう、勉強しないと初白さん赤点になっちゃうよ」


「そ、それは困ります! 勉強します!」


「うん、じゃあ勉強しようか」


「はい」


 俺は初白さんにそう言って、図書館の座っていた椅子に戻った。




 城崎さんに勉強を教えた、翌日の事だった。 俺はまたしても朝から初白に呼び出されていた。


「島並先輩!」


「なんだよ、朝っぱらから……」


「勉強会の件、ありがとうございます!」


「おう、上手くいってるか?」


「バッチリです! とりあえずテストはなんとかなりそうです」


「そうか……ならいいや」


「それで、一つだけ気になることがあって、聞きたいんですけど良いですか?」


「なんだよ、真木のタイプの女とかは知らないぞ、あいつ何回聞いても普通の女の子って曖昧な答えを出すからな」


「違いますよ、島並先輩の事です」


「はぁ? 俺の事? 一体なんだよ?」


「先輩……なんであんな噂が流れてるんですか?」


「………」


 まぁ、いつかは聞かれるとは思っていたけど……まさか今とはな……。

 

「お前も聞いたことあるだろ? その噂通りだ」


「嘘ですよね? 本当はもっと何か理由があるんじゃないですか?」


 こう言うってことは……。


「高弥か……あいつ……何か余計な事を言いやがったな……」


「島並先輩……私、先輩が噂通りの人だなんて思えないんです……だから、教えて貰えませんか?」


「………それを知ってどうするんだよ」


「ど、どうするって……」


「お前がそれを知って何か得でもあるのか? 無いだろ? なら良いだろ」


「で、でも! 知らないままモヤモヤするのは嫌なんです! い、一応私先輩の後輩じゃないですか! 二人で真木先輩を落とすために頑張ってきたじゃないですか!」


「………」


 なんでこいつは……俺の過去なんかに興味を持ったんだか……聞いても別に面白くもなんともねーのに……。

 でも……まぁ、色々相談してる相手の事を知りたいのは当たり前かもしれないな……好きな人の友人ってだけの得体の知れない男だし。


「良いだろう……話してやる」


「本当ですか?」


「ただし条件がある」


「じょ、条件ですか……」


「あぁ、今回のテストで全科目60点以上を取れ」


「え!? 全科目ですか? 合計じゃ無くて?」


「アホかお前……それが達成出来たら教えてやるよ……包み隠さずな」


 このアホの学力で今から頑張って全教科平均60点は結構厳しいかもしれない。

 これで諦めてくれれば一番良いのだが……。

「……全教科60点以上ですね……」


「あぁ……合計じゃねーぞ」


「………分かりました、ちゃんと約束守ってくださいね!」


「お、おう……」


 まさか、了承するとは……なんでそんなに俺の過去なんかが知りたいんだ?

 高弥の奴……何か余計な事を言ったな?

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