第32話
*
土曜日、俺は朝起きて朝食を食べ、道場の手伝いをする準備をしていた。
初白と高弥の事も気になるが、俺は行けないので二人にメッセージを送っておいた。
初白には【とあり合えず落ち着け】とメッセージを送っておいた。
あいつは高弥を目の前にすると緊張してテンパるからな……。
高弥には……とありえず【死ぬなよ】って送っておくか。
「これで良し、さて道場に行くか」
俺は胴着に着替えて道場に向かった。
道場には既に十五人ほどの門下生が居た。
基本的にうちの道場は若い人が多いが、三分の一くらいは社会人や年配のお爺さんなんかも居る。
土日は基本的に若い人たちや平日に仕事をしているサラリーマンなんかがやって来る。
「父さん」
「お、来たか」
「来いって言われたからな、それで新しい門下生の子は?」
「あぁ、この子だ」
そこに居たのは、金髪に青い瞳の可愛らしい女の子だった。
年はおそらく俺と同じくらいだろう。
金髪だし、顔立ちもハーフの様だった。
整った顔立ちをしていて、第一印象は可愛いだった。
「と、父さん……この子って日本人?」
「あぁ、彼女は城崎瑠香(しろさき るか)ちゃん、ロシア人と日本人のハーフだけど、日本語も話せるから安心して良いよ」
「日本語も話せるって……しかも年、俺と同い年くらいじゃないか?」
「あぁ、清浄女学院{せいじょうじょがくいん)の一年生だ、年齢の近いお前の方が良いかと思ってな」
「清浄って、確かかなりのお嬢様学校じゃ……」
「そうなのか? 俺は良くわからんが、まぁ頼むぞ。俺はあっちで関本さんの相手をしてくる」
「あ、あぁ……」
父さんはそう言って、34歳会社員の関本さんの元に向かった。
まさか同じ年ごろのしかも女の子だなんて……。
俺は再び彼女を見て、肩を落とす。
一体どうやって教えるのが正解なのか……少しでもボディータッチとかしたら、セクハラとか言ってこないよな?
俺がそんな事を考えていると、城崎さんが俺に話かけてきた。
「あの、まずは何をするんですか?」
「え? あ、あぁ……じゃあ準備体操からしようか」
「わかりました」
日本語上手いなぁ……しかも滅茶苦茶綺麗な声だし。
なんでこんなザ・お嬢様みたいな子がうちの道場なんかに……。
俺はそんな事を考えながら、自分も準備運動を始めた。
「えっと、城崎さんは武術の経験とかはある?」
「いえ、全然ないです」
「そっか、じゃあまずは基本から教えていくから」
「はい」
なんだか会話が事務的だなぁ……。
まぁ、余計な事を色々話すどっかのアホよりはましだな……。
「まずは構えから、同じように構えてみて」
「わかりました」
「うん、そんな感じ、もう少し腕を上にあげてみようか」
「はい」
「うん、もう少し上に」
「あの……」
「ん? どうした?」
「もう少しとはどれくらいでしょうか?」
「え? あぁ……そうだよね、聞くだけじゃ分からないよね……」
極力ボディータッチは避けようと思ったが、確かに教えるうえでこれはやりにくい。
俺は城崎さんの背後に回る。
「ごめん、ちょっと触るよ」
「はい」
「えっと……だ、大体これくらい……」
「わかりました」
うわぁ……やべぇよめっちゃくちゃいい香りだよ。
しかもなんか体が柔らかいよ……。
なんか若干だけど痴漢の気持ちがわかるかも。
まぁ、これ以上密着してるのはヤバイかもな。
俺はそう思い、直ぐに彼女から離れた。
「そ、それが基本の形だから覚えておいてね」
「はい」
すごく真面目で良い子だなぁ……。
うちの荒々しい女性陣とは違うわ……。
「あいて!」
俺がそんな事を思っていると、俺の頭に何かがぶつけられた。
「おい、平斗。今失礼なこと考えただろ!」
「か、考えてませんよ……茜さん」
茜さんは俺の一個上の女子高生だ。
整った顔立ちをしている美人なのだが、男勝りな性格がそれを台無しにしている気がする。
「たく……悪いねぇ~お嬢ちゃん、こいつむっつりだから、嬢ちゃんの体に触るのビビッて上手く指導出来てねぇみたいなんだ」
「べ、別にそんなんじゃないっすよ」
「嘘つけぇ~さっきから戸惑ってるくせにぃ~」
「まぁ、茜さんみたいな男だか女だか分からない人よりは戸惑います」
「よし平斗、今から私の練習に付き合え、お前サンドバックな」
「謝りますから、許して下さい」
この人ならマジで俺をサンドバックにしかねない。
俺は茜さんに頭を下げて謝った。
「たく……生意気な後輩だぜ、まぁでも嬢ちゃん安心しな、こいつはうちの道場で三番目に強いから」
「は、はぁ……」
「じゃあ、私は私の練習に戻るとしようかな」
茜はそう言いながら、俺と城崎さんから離れていった。
二度とコッチには来ないでほしい……。
というか、うちの道場の女性陣はなぜこんなにも血の気が多いのか……。
「じゃ、じゃぁ続きをしようか」
「はい、お願いします」
その後も俺と城崎さんの稽古が続いた。
彼女は真面目で俺の話をよく聞き、覚えも早かった。
段々彼女も慣れてきて、俺に時々話かけてくるようになった。
「あの島並さんは師範の息子さんなんですか?」
「え? あぁ、そうだよ」
「そうなんですか……」
まぁ、話と言ってもこの程度だ。
俺もあんまり初対面の人と話すのは得意じゃないし、彼女もそうなのだろう。
それでも少しづつは距離が縮まってるのかな?
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