トリップ少女は反逆者の花嫁になる!?
七島新希
第1話 剣と魔法の世界に召喚されました(1)
何が起きたのかわからなかった。ただ、眩い閃光が私の視界を真っ白に覆い尽くしていた。
そして視界が開けると真っ先に飛び込んできたのはレッドカーペットと玉座。RPG系ファンタジーでよく見る王様との謁見の間そのものな場所。
玉座には金髪の二十代ぐらいと思われる男が尊大に足を組んで座っていた。
金髪緑目。ファンタジー世界の王子様のテンプレ的な容姿だったが、その風格は王様と呼んだ方がふさわしい気がした。それ程までに目の前の、玉座に座った男からはカリスマ的オーラを感じた。直感的に。
「これが異世界の者か」
彼は私の方へ、緑の日本人ではない瞳を向け、そう口にした。低く深みのある声。声フェチの女子達からイケボ、色気がヤバいみたいな感じでさぞかし崇められるだろう。美海(みみ)ちゃんだったらきっと狂喜乱舞しているに違いない。
「あなたは誰ですか? そしてここはどこですか?」
脳内に浮かんだ漫画やアニメ、果てや声優や歌い手まで好きな友達を打ち消し、私は目の前の男に尋ねる。
テンプレート的な問いを発しているなと我ながら思ったが、いきなり知らない場所に何の前触れもなく飛ばされ、知らない人間を前にすればこう訊かずにはいられない。
私――姫路優愛(ひめじゆうあ)は高校から帰宅途中だったのだ。美海ちゃん達とも別れ電車に乗り、最寄り駅から家に帰る途中にある公園を通り過ぎようとした時、小学校低学年ぐらいの男の子がよくあるパターンを踏襲するかのように、ボールを追いかけ自動車が接近している車道に飛び出しており、これはなんとかしないとこの子は轢かれてしまうとまあそんなことを考え、自分の身も顧みずに飛び出したのだ。
そして気がついたらここにいた。
もしや、これは流行りの異世界転生というヤツだろうか?
しかし身体には何の変化もないし、着ているのは現在私が通っている私立更篠高等学校のブレザーの制服だ。ジャケットは暑くて着てなかったからないけど、長袖のシャツに赤のリボン、膝上のチェックのスカートに白のハイソックス、茶色のローファーといった格好だ。
ということはこれは異世界トリップというヤツか。確か、別世界でその世界の住人に生まれ変わるのが異世界転生で、自分自身がそのまま別世界に行くのが異世界トリップだったはずだ。
「俺か。俺はイリア。イリア・アルゼウスだ。そしてここはローライナ城だ」
悠然と興味深い物を見るような目でこちらに視線を注ぎながら玉座の男は名乗る。カタカナなお名前にカタカナな城の名前。東洋ファンタジーの世界観ではないようだ。いや、別の場所では和風ファンタジーや中華ファンタジーを繰り広げているとかそういう可能性もあるけれど。
ただ、現時点で考えられるのは西洋ファンタジー。それも剣と魔法の世界的なファンタジー世界だ。
「お前の名は?」
「優愛(ゆうあ)。姫路優愛(ひめじゆうあ)」
玉座の王様然とした男に問い返され私は名乗る。相手も名乗ってくれたのだ。それに答えるのは礼儀でもある。
「年齢は?」
「十七歳。高校二年生」
「コウコウ?」
「高等学校。高等教育を受けるところです」
聞いたことのない単語を発するかのように言い返されたので、私は簡単に説明する。このファンタジー世界に高校はないようだ。
「お前のような年頃の者は皆、コウコウという教育機関に行くのか?」
「そうですけど……」
「お前のいた世界は良いところのようだな。教育水準が高い」
イリアと名乗る男の口振りから察するに、この世界の人々は皆が皆教育を――少なくとも高等教育というのは受けないようだ。
「私はどうしてここに来てしまったんでしょうか?」
というか男の子の安否が気になる。あの後、無事車に轢かれず助かっただろうか?
「俺が呼んだ」
「……呼んだって、それってつまり召喚したとかそういったアレですか?」
目の前のこの男は王様で、私はこれから魔王を倒すのだとでも言われるだろうか? 脳裏にRPGのゲーム画面がよぎる。
「正確に言うと、術の行使をしたのはそこにいるリアムだがな」
イリアが顎で示した先を見れば、玉座よりも左斜め後方に魔術師的なローブを身にまとい、自身の身長よりも少しだけ低いぐらいの大きな、先端に頭蓋骨のオブジェが飾られている、邪悪な魔法使いとかが使っていそうな杖を持った白金の長髪の男が控えていた。腰まで届きそうな髪はサラサラなストレートで綺麗だったが、その顔色は蒼白で、体調が悪いのではないかと心配になる程だった。
さらによくよく周囲を見渡せば、右斜め後方には私と同い年ぐらいの少女がいた。顎下まで伸びた茶色いボブの髪はウェーブがかかっており、着ているローブも白金の髪の男と同じく魔術師的なものではあるが、淡いピンク色で、フードの部分の首元は大きくリボン結びされており、可愛らしい。見るからにゆるふわな癒やし系だ。ただ、その手に持つ杖はファンシーなものではなく、金属製の、先端がいくつも枝分かれしそれぞれの先にはダイヤモンドか何か、とにかく銀色の宝石が飾られた、槍を彷彿させる彼女に似合わず鋭利でクールなデザインの物だった。
「私はどうしてここに呼ばれたんですか?」
誰が召喚したかはともかく、私をこのファンタジー世界に呼んだからには理由があるはずだ。 勇者になって魔王を倒せ? いや、何の武術の心得もないし、聖女とかかな? こういう場合、内なる特別な力とか発現しそうだし、男性経験がなければいけそうな聖女とかの方がお手軽そうだ。……私は聖女を名乗れるようなお淑やかなキャラじゃないけど。
「今、この世界は怪物を増産する反逆者達によってその均衡を崩しつつある。そんな中、この世界の九割の国々を統括している大国――クロストリアの宮廷占い師のマリオネットがこんな予言を出した。『異世界より召喚されし勇者がこの世界を救う』と。だから俺はその勇者をここ、ローライナ城に召喚したのさ」
予想していた通りの答えがイリアから返っていた。しかし、勇者か。私、一応女子だし別に男の子っぽくしている訳でもないのに勇者として呼ばれたのか……。
あと怪物を増産する反逆者達ってモンスターを率いている人達(もしかしたら人外の可能性もあるけど)がいるってこと? 魔王とその配下的な人達的なイメージで良いのかな? 超王道RPGっぽい。
「ということは私はその反逆者達や怪物とやらと戦ってこの世界を救わないといけないのでしょうか?」
自分で言っていて思う。私には無理。こんな無茶振りはやめて欲しいな。
「世界を救うって予言だからな。戦ってどうにかする可能性も高いだろうな」
「戦う以外の方法で救う可能性もあるんですか?」
「怪物を倒すだけだったら、各国の軍やら傭兵が討伐に乗り出しているさ。ただ、無限に増えていくからな。焼け石に水なんだ。それに相手は怪物だけじゃないからな。全員瞬時に皆殺しにでもできない限り、ただ戦って倒すだけじゃ世界は救えないだろうな」
それ最早無理ゲーでは? 少なくても私には無理難題もいいところである。
「あの、その予言の勇者って本当に私で合っていますか? 申し訳ないんですけど私、到底この世界を救える気がしないんですけど……」
「そうだろうな。正直俺もお前のような少女がこの世界をどうこうできるとは思えない」
王様自らがそんなこと言っていいのだろうか? この世界は今、危機に瀕してるんじゃないの? もっとシリアスになっても良いような気がするけど。
しかし、目の前のイリアは泰然と笑みさえ浮かべていた。
「じゃあ私、これからどうすればいいんですか?」
無限に増殖するモンスターを率いる反逆者達相手に一介の女子高生に一体どうしろというのだろうか? RPGのようにただ倒すだけじゃ駄目とか言うし。もっとも、とりあえず倒せばOK! とか言われたところで、何の武術の心得も武器の扱い方もわからない私は途方に暮れてしまうだけだけど。
「そうだな……。日も暮れたし、とりあえず食事でも共にしないか?」
「食事……。あなたとですか?」
いきなりの提案に私は呆気にとられる。話の流れ的に勇者としてこれからどうすれば良いのか訊いたつもりだったので、想定外だった。
けど、学校帰りに男の子を助けようとしてそのまま異世界にトリップしてしまった私は、当然のことながらお昼以降、何も食べていない。日が暮れているというならそろそろ夕食時。お腹も減ってきているような気がする。
腹が減っては戦はできぬとも言うし、魅惑的な提案ではあった。
「俺と夕食を共にするのは嫌か?」
「そんなことはないですけど、私如きがあなたのような方とご一緒していいんですか?」
イリアは玉座なんかに座っているし、それにふさわしい風格も持ち合わせているし、十中八九王様とかもし違っていたとしても王族的な身分のお方に違いない。そんな人とちんけな女子高生が食事とか身分違いもいいところなんじゃないだろうか?
「面白いことを言う奴だな。優愛。お前は異世界より召喚された勇者なんだぞ。当然だろう。かしこまる必要などない」
なぜか吹き出すかのように笑いながら言うイリア。大らかな印象を与えるその笑みに、私は不思議と親しみを覚える。
「ならお願いします」
「ただ、今すぐという訳にはさすがにいかないからな。先にこれから優愛に寝泊まりしてもらう予定の部屋に案内させよう。シア」
「はいっ」
イリアに名前を呼ばれて勢いよく返事をするのは右斜め後方に控えていたゆるふわボブの可愛らしい少女。
「優愛を部屋に案内してやってくれ」
「わかりました!」
少女はイリアに対してしっかりと頷くと、私の方へと近づいてきた。遠目から見ていた時から思っていたけれど、この子、ゆるふわな感じで本当に可愛い。長袖のローブの袖口も小花のモチーフが連なったブレスレットで両腕共に留めてあってキュートだ。
「初めまして、勇者様。私、シンシア・ディーと申します。お部屋の方へご案内させてもらいますね」
シンシアはにっこりと愛らしい笑顔で私にそう告げると、ちょこんと軽く頭を下げた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます