第640話 過去編5 レースの裏側 13 予選3日目 4
予選3日目。
付き添いのアルフレットは他の付き添いたちと別室で待たされていた。
軽食や菓子が用意され、お茶を自由に飲めるようになっている。
残った令嬢は25人に少し足りない23人で、付き添いの数も同様だ。
その内、貴族は20人もいる。当然、控え室はちょっとした社交の場と化していた。あちこちで腹の探り合いが行われている。
見据える先は、王子妃が決まった後のことだろう。自分の推薦者以外に決まった場合を考えて、縁を作ろうとしている。
(くだらない)
アルフレットは心の中でぼやいた。
幸い、この場でもっとも高位なのは大公家のアルフレットだ。アルフレットの方から誰かに話しかけなければ、話をしなくて済む。
アルフレットはだんまりを決め込んでいた。
しかし、予想外の出来事が起こる。
控え室のドアが開き、ルイスが入ってきた。きょろりと見回し、誰かを探している。
ルイスが実質的な主催者であることはもうみんなが知っていた。
そのルイスが突然現れたのだから、控え室の中は騒然とする。部屋中の視線がルイスに注がれた。
アルフレットもルイスを見る。
ばちっと目が合った。
(不味い)
何故か、アルフレットはそう直感する。さっと目を反らした。だが、もう遅い。
ルイスは真っ直ぐ、アルフレットの方へ来た。
「兄さん」
呼びかける。
(え? 兄さん??)
アルフレットは驚いた。そう呼ばれるのは、何年ぶりだろう。
ルイスは実の弟だが、第三王子の側近だ。第二王子の側近であるアルフレットとしては、親しく出来ない事情がある。人前で顔を合わせるのは出来るだけ避けてきたし、家でも忙しいルイスとは時間が合わないので顔を合わせないのが常だ。
「……」
驚いて返事が出来ずにいると、ルイスはふっと笑う。
「ちょっと」
くいっと、顎で外を指し示した。
「ああ」
返事をして、アルフレットは立ち上がる。ルイスについて外へ出た。
「何かあったのか?」
ドアが閉まった後、アルフレットは問う。
「……」
ルイスは何とも渋い顔をした。
「あったよ」
頷く。
「マルクス様に何か?」
アルフレットは主人を心配した。
「いや、そっちじゃない」
ルイスは首を横に振る。苦く笑った。
第二王子のマルクスは欲のない穏やかな人だ。なんだかんだいって坊ちゃん育ちで人のいいアルフレットに合っていると思う。
権勢を誇った祖父の陰に隠れて大人しくしているが、父はなかなか強かな人だとルイスは思う。2人の息子を適切な場所に配置していた。
「マリアンヌの件だ」
ルイスは教える。
「は?」
アルフレットは首を傾げた。
「何か失敗したのか?」
不安そうに聞く。やらかす可能性はいろいろあった。
「失敗……」
ルイスはぼそっと呟く。
「そうだな。ある意味、最大限の失敗をしたのかもしれない」
苦く笑った。
「?」
珍しく要領を得ない話し方をするルイスに、アルフレットの不安は募る。
「王子妃に選ばれそうだ」
ルイスは一言、端的に告げた。
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