第465話 外伝5部 第一章 1 休日の朝
月日は流れ、アドリアンとオーレリアンは19歳になった。とっくに社交界にデビューをしたが、2人とも浮いた話がまったくない。
パーティに参加しても2人でつるんでいるだけで、令嬢をダンスに誘うこともなかった。
結婚相手を探すつもりはまったくないのが見ていてわかる。
そんな息子達に、母親としてマリアンヌは複雑な気持ちになっていた。
だが、未来ある令嬢の人生を狂わせないことにはほっとする。
女として幸せになりたいなら、息子達は結婚相手にお勧め出来ない。他にいい人を見つけて欲しいと思っていた。
エイドリアンは今年、16歳だ。社交界にデビューする。
こちらは普通に社交性もあるので、心配していなかった。兄達と違って、それなりに交流も持ってくれるだろう。そういう意味では安心だ。
そして今年も社交の季節がやってくる。
「あー、気が重い」
マリアンヌはぼやいた。
朝から、ベッドの中でうだうだしている。休みなので、今日はのんびり出来た。まだ起きる時間には早い。
「起きたくなーい。明日なんて来なければいいのに」
足をバダバタ動かした。地団太を踏む子供みたいなことをする。
明日から社交の季節が始まる。マリアンヌにとって一番憂鬱な2週間だ。
毎年、気が重い。
そんなマリアンヌを隣でラインハルトは笑いながら見ていた。
可愛いなと思っているが、口に出したら拗ねるので言わない。黙って、にやけていた。
「始まればあっという間だよ。毎年、そうだろう?」
マリアンヌを宥める。
それはマリアンヌを逆にイラつかせた。
(簡単に言うな)
心の中で毒づく。
「いいわよね、男性は。社交はそんなに関係ないもの。パーティにだって出る機会は少ないし」
ラインハルトを睨んだ。
基本的にお茶会は女性のイベントだ。パーティは男女同伴が基本だが、息子が年頃になると母親をエスコートするのは息子の役目になる。男性はあまり社交に参加する機会がなかった。この国では社交は女性の仕事と位置づけられている。代わりに、男性のみが集まる狩りとかそういうイベントは開かれていた。
(基本的に、ただ遊んでいるだけよね)
心密かに、男性の集まりについてマリアンヌはそう思っている。
女性は仕事的な度合いが強いが、男性はほぼ遊んでいるだけだ。
神経をすり減らしているこちらの身になれと心から思う。
マリアンヌはふんっとラインハルトに背を向けた。
顔を見ていたら、喧嘩を売ってしまいそうなので顔を合わせない。
そんな姿が、ラインハルトには愛おしかった。
「マリアンヌ」
優しい声でラインハルトは名を呼ぶ。背中から、マリアンヌを抱きしめた。
項に顔を寄せ、チュッと吸い付く。
ラインハルトの手がマリアンヌの身体に絡みついた。胸を掴む。朝からいやらしく揉んだ。
その手を掴んで、マリアンヌは止める。
「ちょっと……」
文句を言おうと振り返った。
「んっ」
そのまま唇を塞がれる。舌がするりと開いた口から中に入り込んできた。
「……んっ」
マリアンヌは声を漏らす。
気づいたら、組み敷かれていた。いつの間にかラインハルトは覆い被されている。
口付けを止めないまま、ラインハルトの手はマリアンヌの寝間着のボタンを外した。前を開き、中に手を差し入れる。素肌に触れた。揉まれて指で摘まれ、ぴくっとマリアンヌの身体は反応した。
拒む隙を与えず、ラインハルトは行為を進める。
マリアンヌは流された。
嫌なわけではないし、時間がないわけでもない。今日は休日だ。
だがその決断を後から後悔する。
いつもより興奮したラインハルトにいつも以上に可愛がられて起らきれなくなってしまった。
休日の朝食の時間はいつもより遅い。
その席に母の姿がないことにアドリアンは気づいた。
「母様は?」
妹が父に問う声が聞こえる。
妹は完全にお母さん子だ。常にべったりで、離れようとしない。
兄弟が男ばかりのせいか、何でも母の真似をしようとした。
父はそんな娘を心配するが、アドリアンは杞憂だと思っている。
真似しようとして、真似できるような人ではない。
「ちょっと疲れがたまっているので寝ているよ。昼には起きてくるから大丈夫」
答える父は笑顔だ。気のせいではなく、満たされた顔をしている。
(そういうことか)
心の中で、アドリアンは呟いた。何があったのか、理解する。朝から、父と母は仲良しだったらしい。
だがさすがにそれを口に出すほど子供ではなかった。胸の中にだけしまっておく。
(相変わらず仲がいいな)
普通に感心した。
2人はそろそろ結婚して20年になる。新婚ならともかく、今でもラブラブなのは奇跡だと思う。
2人を見て育ったのでそれが普通だと小さい頃は思っていた。だが、そうではないことをもう知っている。
父と母はかなりの例外だ。
父は未だに母一筋で、他の女には目もくれない。だが、あと2人妃を娶れる父は今でもかなりモテていた。
あわよくばを狙う女性は少なくない。両親の仲の良さを知っているから、そんなことを考える女性の心理が理解出来ないが、はたからは仲の良さはわかりにくいのかもしれない。
「7人目とか生まれたらさすがに笑うな」
ぼそっと呟いた言葉を聞きとめたオーレリアンにアドリアンは足を蹴られた。
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