第424話 外伝4部 第二章 2 注目





 寄宿学校から戻ってきた翌日には、国王の側近としてアドリアンとオーレリアンは仕事を始めた。重要な案件をいきなり任されるわけもなく、2人の仕事はほぼ雑用だ。資料を整理したり、書類を届けたり、王宮の中でその姿を頻繁に見かけるようになる。


 2人は何処に行っても注目の的だ。


 次の次の国王が、2人のうちのどちらになるのか貴族でなくても気にしている。


 そもそも、2人の姿はこれまでほとんど王宮の中で見かけることがなかった。オーレリアンの秘密を気にして、マリアンヌが離宮から極力出さないようにする。転生者であるオーレリアンは、どうしても言動や行動が大人びてしまう。それがさほど不自然に感じることがない年齢になるまで、2人纏めて隠してきた。


 だがその親心が、かえって2人の存在をミステリアスにして目立たせる。逆に興味を煽っていた。




「視線が煩い」




 アドリアンはぼやく。こそっとオーレリアンに耳打ちした。2人は一仕事終えて、国王の執務室に戻ろうとしている。突き刺さるような視線をあちこちから感じた。


 王宮の中で、2人はほぼ一緒に行動している。同じ仕事を与えられ、二人でそれを片付けていた。


 それはマリアンヌの提案らしい。国王がどちらかを贔屓している印象を与えないよう、十分に注意してくれと頼んだようだ。


 国王はその提案を飲んだようで、今のところ何をするにも2人は一緒だ。それは一人の時を狙って、誰かが接触したりしないようにという配慮もある。




(この状況で、接触なんて無理だと思うけど)




 心の中で、アドリアンは呟いた。


 2人には常に護衛がついている。国王の執務室以外は、一人に一人、護衛がつかずはなれず側に控えていた。




「これが普通だよ」




 オーレリアンはアドリアンに答える。


 いろいろ気になるアドリアンと違って、オーレリアンは全く気にしなかった。


 護衛の存在も、ちらりと一瞥した後は意識している感じがない。


 そういうところはさすがだとしか言えなかった。




(何回も王族として転生し、何回も国王になっていれば慣れるんだな)




 アドリアンは感心する。


 最初、オーレリアンの秘密を知った時は驚いた。だが、母とオーレリアンが何を言っているのかはちゃんと理解出来ない。転生というものを理解したのは、少し大きくなってからだ。何度も生と死を繰り返し、前の人生の記憶も持っているというのはなかなか大変だろう。


 アドリアンも忘れられない人だから、その苦労は少し理解できる。何でもかんでも覚えているのはとても負担だ。


 だが、きっとオーレリアンはいい王になるだろう。




「父様の次はオーレリアンでいいと思う」




 ぼそっと独り言のようにアドリアンは呟いた。




「え?」




 オーレリアンは戸惑った顔をする。アドリアンを見た。




「次の次の国王には、オーレリアンがなればいい」




 アドリアンは微笑んだ。悪意も他意もそこにはない。


 そう思ったからそう口にしたのはオーレリアンにもわかった。


 だが、それはこんなところで不用意に口にしていい話ではない。




「ちょっと、父様のところに寄ろう」




 オーレリアンは言った。




「え?」




 今度はアドリアンが驚く。オーレリアンは真面目だ。寄り道を提案するのは珍しい。




「話がある」




 オーレリアンは真剣な顔をした。




「……わかった」




 アドリアンは頷く。


 くるっと、後ろにいる護衛達を振り返った。




「国王陛下の執務室に戻る前に、父のところに寄ります」




 行き先の変更を告げる。




「はい」




 護衛騎士は頷いた。


 アドリアンとオーレリアンは父親の執務室のドアをノックする。




「はい」




 返事が聞こえた。ルイスの声だろう。




「アドリアンとオーレリアンです。入って、いいですか?」




 オーレリアンが聞いた。




「どうぞ」




 返事を待って、オーレリアンはドアを開ける。2人一緒に、部屋に入った。護衛の騎士はドアの外で待たす。




「お疲れさま。仕事はどうだい?」




 顔を出した息子達に、ラインハルトは声をかけた。顔が見られて嬉しい。だが、オーレリアンがいつになく厳しい顔をしていることに気づいた。ふだん、感情の起伏が少ないオーレリアンがムッと怒っている。




「何かあったのか?」




 ラインハルトは嫌な予感を覚えた。




「何も」




 アドリアンは首を横に振る。隣で口を尖らすオーレリアンを不思議そうに見た。




「はっきり言おう。私は父様の後を継ぐのはアドリアンがいいと思っている。そうするのが、一番いい」




 怒った顔で、オーレリアンは言った。



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