第417話 外伝4部 第一章 1 歳月





12歳になったアドリアンとオーレリアンは寄宿学校を卒業して国に帰ってきた。長期の休みには帰国しているが、卒業して帰ってくるのはまた別だ。


 マリアンヌは待ちきれず、王宮の門を入ったところまで迎えに出る。馬車を待った。


 到着した馬車から2人は颯爽と降りてくる。成長して、ますますイケメンになった。ラインハルトとシエルに似ているが、二人とは少し違う感じに成長している。




「お帰りなさい」




 出迎えたマリアンヌは抱きつきたいのをぐっと我慢した。ここでは人目がある。


 息子とはいえ、皇太子妃が人前で異性を抱きしめたら何を言われるかわからない。それくらいの認識はさすがにマリアンヌも持ち合わせていた。ぷるぷると我慢で身体が震える。


 それに息子達は気づいた。長期休暇で帰ってくる度、ぎゅっと抱きしめられるのは恒例になっている。マリアンヌが何を我慢しているのかは直ぐにわかった。




(耐えている)




 アドリアンはにやにや笑う。面白がった。




「笑いすぎ」




 オーレリアンは小突く。


 アドリアンはぺろりと小さく舌を出した。悪戯っ子の顔をする。


 この5年で、2人の性格の違いは顕著になった。


 活発で何に対しても積極的なアドリアンが動なら、冷静で常に周囲の状況を把握しているオーレリアンは静だ。二卵性で、双子にはあまり見えないがいつも一緒にいる。アルス王家の鷲の紋章に引っ掛けて、双頭の鷲と学校では呼ばれていた。




「数ヶ月ぶりだけど、大きくなったわね。成長期って怖いわ」




 マリアンヌは2人を促して、離宮に向かう。




「母様。それはこちらのセリフです。まさかまた兄弟が増えているとは思いませんでした」




 オーレリアンはちらりとマリアンヌの腹部を見た。ふくらみがある。




「それは、まあ……」




 マリアンヌは言葉を濁した。


 5年間の間に、すでに2人もマリアンヌは子供を産んでいる。最初は男の子で、次は女の子だ。そして今も6人目を妊娠している。




「アドリアンとオーレリアンがいないから、エイドリアンが一人では寂しいだろうと思って……」




 言い訳した。恥ずかしそうな顔をする。


 一人産んだら、もう一人とラインハルトに強請られた。断る理由もなくて、マリアンヌは流される。今、お腹にいる子はあと一人で6人だからと言われて、そういうことになってしまった。なんだかんだでラインハルトにマリアンヌは弱い。




(まさか、本当に大家族の母になるとは)




 マリアンヌ自身、戸惑ってはいた。


 だが執事もメイドも乳母もいるので、マリアンヌの負担はそこまで大きくない。


 それは貴族さまさまだと思っていた。




「言い訳なんてしなくていいよ。父様と母様が仲良しなのは昔から知っている。父様が多く子供を欲しがったのは、第二妃や第三妃を娶らなくても、文句を言わせないためもあるんでしょ?」




 アドリアンがそう言うと、マリアンヌは目を丸くした。




「何?」




 驚いている母をアドリアンは不思議そうに見る。




「アドリアンがちゃんと考えていることにちょっと感動しています」




 マリアンヌは感極まる顔をした。




「昔はわたしやオーレリアンの意見を聞いて物事を決めるような、いまいち主体性かない子で心配していたけど。親が何もしなくても子供って勝手に育つのね」




 目を潤ませる。




「学校にはいろんな人がいて、いろんな家庭の事情も見てきたからね」




 オーレリアンは笑った。


 学校には王族や上級貴族がたくさんいる。複雑な家庭の事情を持っている子も少なくなかった。彼らはその事情を口にしないけれど、一緒に暮らしていればそれぞれの事情は見えてくる。人間関係はとても複雑だとアドリアンは思い知った。それはマリアンヌの元で育っていたら、気づけなかったかもしれない。マリアンヌは突飛だが、人としてはまともだ。自分の両親がとても倫理的であることを寄宿学校にいる間にアドリアンは気づく。


 そんなアドリアンの変化をオーレリアンは側で見ていた。


 そんな2人の様子に、アドリアンは拗ねた顔をする。




「なんだよ」




 口を尖らせた。




「学校に入って、良かった?」




 マリアンヌはアドリアンとオーレリアンに尋ねる。学校に通っている間は、楽しく過ごしているかは確認してもそれは聞けなかった。卒業した今だから、聞ける。




「良かったと思っている」




 オーレリアンは頷いた。




「うん」




 アドリアンも同意する。




「それなら良かった」




 マリアンヌは心から安堵した。



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