第387話 外伝3部 第三章 4 本当




 案内されたのは私室っぽかった。


 庭に面した部屋に応接セットみたいな感じでカウチとテーブルが置かれてある。


 テーブルの上にはつまみが並び、ワイングラスがあった。果実酒的なものが冷やされているのが見える。


 ウリエルとガブリエルは立ってマリアンヌを出迎えた。




(普通に仲良さそうに見える)




 マリアンヌは心の中で呟く。もちろん、そんな感想は顔には出さなかった。




「突然のお願いにも関わらず、ありがとうございます」




 マリアンヌは礼を言う。にこりと笑った。




「いいえ。こちらこそ、気が利かなくて……」




 ウリエルは申し訳ない顔をする。




「こちらから誘うべきでした」




 謝罪した。




(そういえば、歓迎パーティみたいなものはなかったな)




 ふと、マリアンヌは気づく。


 通常、他国の大使が視察に来たら歓迎パーティのようなものは開くのではないだろうか。だがそういう感じのものは一切なかった。




(案外、歓迎されていないのかもしれない)




 今さら、その可能性にマリアンヌは思い当たる。


 議会関係について、見学が何一つ予定されていなかったことにも少し引っかかりを覚えていた。




(王族側は歓迎していても、議会側は歓迎していないとか普通にありえる)




 そう考えると、彼らが何から目を逸らせたかったのか、わかるような気がした。




「今夜はゆっくり、アルステリアのお酒を楽しんでください」




 ガブリエルがにこやかに微笑む。美人の笑顔はちょっとした圧があった。




「ありがとうございます」




 マリアンヌは礼を言う。案内されるまま、カウチに座った。


 メアリはマリアンヌの後ろに立つ。


 ウリエルもガブリエルも側近を連れていなかった。部屋の扉の外に近衛兵が居るだけで、室内には侍女もいない。




(まるで人払いしたみたい)




 マリアンヌはそう思った。


 おそらく、当たりだろう。




 乾杯して、3人は飲み始めた。


 当たり障りのない世間話が続く。今日は暑いとか寒いとか、会話に困った大人が良く口にする常套句が並んだ。


 マリアンヌは油断して、気を緩める。




「アルステリアはどうでしたか?」




 そこにウリエルが直球を投げてきた。




(意外。こんなふうに直球を投げるタイプだとは思わなかった)




 マリアンヌは心の中で呟く。




「いい国ですね」




 にこりと笑った。




「わたしは実家がこちらと気候的に似ているので、いろいろ懐かしい感じがしました」




 正直に答える。




「でもそれは、似ているところだけ見せられたからですよね?」




 微笑みながら、聞いた。




「それに、ウリエル様とガブリエル様も本当は仲がよろしいのでしょう?」




 そう続ける。




「何故、そう思うのですか?」




 マリアンヌの言葉に、驚いた様子もなくウリエルは問い返した。


 内心でどう思っているのかはともかく、動揺をまったく表に出さないのはさすがだなとマリアンヌは感心する。




「出来すぎていたからです」




 答えた。




「アルス王国に似ている国内の様子。出される食べ慣れた料理。出来すぎていて、不自然です。そこに、ピリピリした雰囲気を醸し出す王族の姉弟。……まるで、誰かが台本を書いたようですね」




 くすくす笑う。




「そこまでして、わたしたちから隠したかったのは何ですか?」




 小首を傾げて、マリアンヌはウリエルとガブリエルを見た。




「そこまでして隠したいものなら、問われても答えないと思いませんか?」




 ウリエルは聞き返す。




「思いません」




 マリアンヌは静かに首を横に振った。




「隠すつもりなら、人払いなんてしないでしょう? わたしが感づいたら、話すつもりで最初からいたのではないですか?」




 自分が試されていたのではないかと、マリアンヌは疑っている。


 ウリエルとガブリエルの2人を真っ直ぐ見つめた。




「ふっ」




 ウリエルは笑いを漏らす。




「皇太子妃は頭の回転の早い女性だと聞いていましたが、本当なのですね」




 感心した。




「そんな話をしたのはハワードですか?」




 マリアンヌは困った顔をする。


 国の内情をペラペラ話すのはよろしくなかった。もっとも、ハワードにそんなつもりはないだろう。


 何かの弾みで、自分の話題が出たのだろうと、マリアンヌは察した。


 それが本当に弾みかはともかく。


 ウリエルは質問に答えなかった。


 ハワードを庇っているのかもしれない。


 マリアンヌはそれ以上、この件を追求しなかった。




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