第383話 外伝3部 第二章 5 資質
シエルに叱られ、マリアンヌは反省した。そもそも、大人気ないことをした自覚はある。
(相手は次期国王。適切な距離と節度を持とう)
そう決めて翌日の視察を迎えた。今日は少し遠出して、郊外の様子を見せてもらうことになっている。
だが、集合場所にやってきたのはウリエルではなくガブリエルだった。
今日の案内は彼女らしい。
(昨日、気まずかったから代わったとか?)
マリアンヌは内心、焦る。
自分のせいで国と国の関係が気まずくなったら不味いと思った。
こそこそと担当者であるハワードにすり寄る。視察の予定はハワードがアルステリア側と相談して決めていた。視察のことに関しては一番詳しい。
「今日の案内はどうしてガブリエル様なの?」
ハワードに尋ねた。理由があるなら知りたい。
「?」
ハワードは質問に不思議な顔をした。
「どうしても何も最初からガブリエル様の予定ですが」
困った顔で答える。
「最初から?」
マリアンヌは聞き返した。
「ええ。昨日はウリエル様が担当し、今日はガブリエル様が担当する予定です。一日ずつ、分担したようですね」
ハワードは説明する。
「そうなのね」
マリアンヌはほっとした。自分のせいで代わったとかではなくて安心する。
(よく考えてみれば、昨日の一件を気にしているならガブリエル様と交代することだけはないわね。わたしとガブリエル様が親交を深めるのはウリエル様似とってどう考えてもマイナスだもの)
考えすぎていた自分を心の中で笑った。
「何か気になることがありましたか?」
ハワードはマリアンヌに尋ねる。
「いいえ、何も」
マリアンヌは首を横に振った。
郊外は長閑な農作地帯が続いていた。
気候は穏やかで、ランスローとあまり変わらない。栽培している農作物もアルス王国とほとんど差異がなかった。
(技術レベルがほぼ一緒で、気候もそれほど変わりない。使っている言語も住んでいる民族も同じ。……兄弟国という意味がよくわかるわ)
マリアンヌは心の中で納得した。二つの国はあまりに近しい。
案内役であるガブリエルは丁寧にいろいろ説明してくれた。
昨日のウリエルより、ずっと詳しい。いかにも仕事が出来る女という感じがした。ウリエルが何に対してコンプレックスを感じているのかよくわかる。
出来る兄弟がいると苦労するのだなとマリアンヌはちょっと同情した。
「ガブリエル様はお詳しいのですね」
マリアンヌは誉める。相手を立てるのも仕事だと思っていた。社交辞令だが、本当に感心はしている。
「わたしは元々農業関係が専門なのです」
ガブリエルは答えた。
議員としての仕事も農業関係だったことをマリアンヌは思い出す。
(気が合うかも)
心の中でそう思った。しかし、それを口には出さない。
ガブリエルと仲良くしすぎるのは不味かった。
今回は適度な距離を取ることを目的にしている。
(仲良くしなきゃならないのも気が重いけど、仲良くしちゃ駄目なのも気が重い)
そんなことを考えていたら、くいっと手を引かれた。アドリアンが手を掴んでいる。
「どうしたの?」
マリアンヌは尋ねた。
アドリアンとオーレリアンはずっといい子にしている。
大人でも退屈するような視察に根気強く耐えていた。
もっとも、オーレリアンの方はかなり興味津々という感じであちこち見ている。マリアンヌにとってはたいして珍しくもないものも、王宮育ちのオーレリアンには大抵見たことのないもののようだ。いろんなものに興味を示す。
だが、アドリアンの方はそうでもない。退屈なのを我慢しているのはわかっていた。
「あれ、やってみたい」
アドリアンは収穫している様子を指差す。機械なんて便利なものはこの世界にはほぼ無いので、当然、全てが手作業だ。一つ一つ、食べごろの実を捥いでいる。
それが面白そうにアドリアンには見えたようだ。
「やってみたいの?」
マリアンヌは困った顔をする。そんなこと言い出すなんて思いもしなかった。
ちらりとガブリエルを見る。
直ぐ隣にいたガブリエルにはもちろん、アドリアンの声が聞こえていた。
「体験できるか、確認してきましょう」
判断が早いガブリエルはそう言うと、さっと動く。
(仕事が出来る)
マリアンヌは心の中で感嘆した。
ガブリエルはさくさくと準備を進め、アドリアンとオーレリアンは農業体験をさせてもらう。
(キッザニアみたい)
子供が職業体験する施設をマリアンヌは思い浮かべた。楽しそうな子供達の姿に、和む。
手応えを感じたのか、その後は視察の場所が変わるたびにガブリエルは体験できるよう手配してくれた。
アドリアンとオーレリアンはいろんなことをやらせてもらう。
2人は喜んだ。テーマパークで遊んでいる子供みたいになる。
視察の時間はあっという間に過ぎた。
アドリアンもオーレリアンも、いろいろと良くしてくれるガブリエルにすっかり懐く。
(なるほど。ガブリエル様に国王になって欲しいという周囲の気持ちがわかるわ)
マリアンヌはそう思った。
ガブリエルには王の資質がある。人を惹きつける魅力がある人だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます