第351話 外伝2部 第二章 3 紛糾
アドリアンとオーレリアンが大使として隣国を外遊することは重臣達との会議にかけられた。
会議室のような場所に重臣達は集められる。
そこに国王と皇太子であるラインハルトが加わった。
当然、7歳の子供に任せるような仕事ではないと反対の声が上がる。
それは想定内だ。
国王もラインハルトもそう思っている。だが、無謀なことは百も承知の上で、双子に任せるしかなかった。
その理由を、国王は一つ一つ説明する。
それはどれも納得出来るものだった。
「以上を踏まえて、他に妙案があるなら教えてくれ」
国王はぐるりと重臣達を見回す。
「……」
重臣達は一様に黙り込んだ。
妙案なんて誰にもない。自分達が思い付くようなものはすでに検討され、却下されていた。
その上で、最後に残った案が子供達の大使任命だ。
「まあ、どうしても7歳の子供に任せるのが不安だというのであれば、皇太子妃であるマリアンヌを大使に任命するという手が無いわけではない。どのみち、アドリアンとオーレリアンが隣国に向かう時はマリアンヌも同行するだろう。それならいっそ、マリアンヌを大使にするのもいいかもしれない」
国王はそんなことを言い出した。
マリアンヌの名前に、部屋の中は一気にざわつく。
皇太子妃とはいえ、女性が大任を任されることに難色を示した。
「マリアンヌ様はちょっと……」
そんな声が上がる。
「頭の回転が早い方ですし、任務を遂行するのは問題は無いかもしれません。ですが、大使のような大任を任せるのは……」
承服出来ないという顔をした。
(やれやれ)
国王は内心、ため息を吐く。
頭の固いやつらばかりだと呆れた。だがここで無駄に諍いを生むつもりはない。
「そうであろうな。私も大使にするなら王族の男子が相応しいと思っている」
国王は重臣達の意見に同意を示した。
それを聞いて、重臣達は露骨にほっとする。
「だがフェンディやマルクスが王宮を離れた今、王族の男子は皇太子とその息子達しかいない。次期国王であるラインハルトを状況が定かではない隣国に向かわせるのは私としては避けたいが、皆はどう思う?」
国王は質問した。だが、それは問いかけの形をしていても求められている答えははっきりしている。それ以外の返答は許されない空気が流れていた。
「おっしゃる通りです」
重臣達も同意を示す。
だがそれが本心とは限らなかった。
国王はもちろん、そんなことは承知している。
国王と重臣達は互いに腹を探り合っていた。
王宮で会議が紛糾(?)している頃、マリアンヌは子供達が勉強する様子を眺めていた。
子供達は今、国の歴史を習っている。
マリアンヌも子供の頃、貴族教育の一環として国の歴史を習った。
だが、ただの貴族であったマリアンヌが習った内容と、今、子供達が家庭教師から習っている国の歴史はだいぶ違う。子供達が習っている内容はかなり詳しく、細かかった。マリアンヌも初めて聞く内容が多い。7歳の子供が覚えることとは思えなかった。
実は、アドリアンとオーレリアンの勉強は年相応よりだいぶ進んでいる。アドリアンの記憶力とオーレリアンの知識に合わせて学習内容は決められていた。
(王族が知るべき歴史と、貴族が知っておくべき国の歴史は違うのね)
マリアンヌは心の中で呟く。
我が子が王族であることを、こんな時に感じた。
「国を背負って立つ良き王になるために、王族の子供は小さい頃から大変なのね」
ぼそりと独り言を口にする。
「そうですね。今頃は、旦那様や国王様も会議でもっと大変な思いをされていると思いますが……」
マリアンヌの言葉に、メアリが答えた。
メアリは大使の件をある程度、聞かされている。実際に隣国に向かう時はメアリもマリアンヌに同行することになるからだ。無関係ではない。
「やはり、紛糾しているかしら?」
マリアンヌは苦笑した。
「すんなり決まるわけはないと思います」
メアリは頷く。
重臣達は頭の固い人間が多い。女性であるマリアンヌが大使になるのも、子供であるアドリアンとオーレリアンが大使になるのも、どちらも良しとしないだろう。無駄な議論を重ねているに違いない。
「他に選択肢が無いなら、ましな方を選ぶしかないのにね」
マリアンヌは簡単に言った。
「そう簡単に割り切れない人たちばかりなのですよ」
メアリは首を横に振る。
「大変そうね」
マリアンヌは何かを考える顔をした。
「ラインハルト様が帰ってきたら、今日は労わってあげましょう」
そう決める。
疲れている夫の労をねぎらうことにした。
「そうしてあげてください」
メアリはにこっと微笑む。
「きっと、お疲れだと思います」
何とも気の毒な顔をした。
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