第349話 外伝2部 第二章 1 選択





 翌日、ラインハルトはルイスに事情を説明した。自分の執務室でデスクの前に置かれた椅子に座る。


 その横にルイスは立っていた。朝から厄介な話を聞かされたルイスは頭を抱える。




「何をどうすればそういうことになるのですか?」




 意味がわからないという顔をした。露骨に眉をしかめる。




「それは私にも理解不能だ」




 ラインハルトは苦笑した。


 ルイスはやれやれとため息を吐く。




「母親に似たんですね」




 その一言で片付けた。子供達の暴走をマリアンヌのせいにする。


 ラインハルトは何も言わなかった。フォローはしない。自分もそう思っていた。マリアンヌは認めないだろうが、子供達の性格はマリアンヌに似ている。母を見て育ったのだから、当然かもしれない。




「とにかく、そういうことだから少しでも情報を集めたい」




 ラインハルトはルイスに頼んだ。




「わかりました」




 ルイスは了解する。




「出来る限り、隣国の情報を集めてみます」




 約束した。




「ところで、最終的にはどうされるおつもりですか?」




 尋ねる。真っ直ぐ、主を見た。選択肢は今のところ二つある。どっちもどっちだとルイスは思っていた。だが、二つのうちどちらかは選ばなければいけないことになるだろう。




「……」




 ラインハルトは迷う顔をした。だが、あえて選ぶなら決まっている。




「マリアンヌが大使になるより、子供達を大使にする方が簡単だと思う」




 答えた。より実現可能な方を選択する。




「私もそう思います」




 ルイスは同意した。


 重臣達には頭が固い連中も多い。マリアンヌが大使になれば、要らぬ反感を買うだろう。それならば、子供でも王族の男子である2人の方が受けいれられるに違いない。


 だがもちろんそれも容易な話ではなかった。




「やはり、私が大使になるのが一番いいと思うのだが……」




 ラインハルトはルイスを上目遣いに見る。それは許可を求めているように見えた。




「駄目です」




 ルイスははっきり言う。考える余地もなかった。




「万が一のことがあったら、どうするおつもりですか? せっかく落ち着いている派閥争いがややこしいことになりますよ」




 脅し気味に尋ねる。それはラインハルトが一番望まないことだと知っていた。王宮がごたごたすることをラインハルトは嫌う。




「……」




 ラインハルトは何も言い返せなかった。ルイスの言い分が正しいのはわかっている。皇太子である以上、優先するべきなのは我が身の安全だ。次の国王に万一なんてあってはならない。




「アドリアン様とオーレリアン様が大使になる方向で話を纏めるようにします」




 ルイスはそう口にした。方針を明確にする。




「頼む」




 ラインハルトは任せた。




「私は父上と話をしにいく」




 気の進まない顔で椅子から立ち上がる。




「同行します」




「不要だ」




 ルイスが問いかける言葉を、食い気味にラインハルトは遮った。必要ない。




「わかりました」




 ルイスはあっさり引く。時間はいくらあっても足りなかった。






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