第318話 外伝 第三章 3 成長




 ほのぼのとした一日を過ごした後、マリアンヌは子供たちと子供部屋に向かった。


 子供たちの就寝時間が近い。


 子供たちを寝かしつけるのはマリアンヌの仕事だ。


 その時だけは子供たちと水入らずで過ごすことが出来る。


 メアリも同席させなかった。


 基本、離宮の中にいても誰かしらは常に側にいる生活をマリアンヌと子供たちは送っている。


 家族だけの時間なんて存在しない。


 そういう生活が王族は当たり前だ。


 ラインハルトはその状況を気にしない。


 しかし、マリアンヌにとってそれは普通ではない。


 結構なストレスになっていた。


 メアリのことは信頼しているし気も許している。


 しかし、無意識に気を遣っているところがあった。


 時々、疲れを覚える。


 秘密を抱えるマリアンヌと子供たちには他人に聞かれずに話したいこともあった。


 そんな時はこの家族だけの時間を利用する。


 末っ子を寝かしつけながら、アドリアンやオーレリアンとマリアンヌはいろんな話をした。


 2人もマリアンヌとじっくり話が出来るこの時間を楽しみにしている。


 マリアンヌは誕生日のパーティが王宮で開かれることを今、伝えた。


 正式に決まるまで、2人にはあえて話さない。


 パーティを開催する意図もきちんと伝えた。


 マリアンヌはオーレリアンを子供扱いしない。


 一人前の大人として扱った。


 見た目は7歳でも中身は賢王だ。


 自分より賢いと思っている。


 アドリアンのこともオーレリアンと同様に扱っていた。


 マリアンヌは常に平等を心がける。


 だが、最初はそうではなかった。


 アドリアンとオーレリアンは一緒に生まれたが別々の人間だ。


 同じように扱うのは無理があるとマリアンヌは思った。


 一人は普通の赤ちゃんで、もう一人の中身は数百歳だ。


 見た目はどちらも赤ん坊だが、同じに扱えるわけがない。


 だがそれをアドリアンは不公平と感じた。


 オーレリアンと同じがいい。


 同様に扱われるのを望んだ。


 そのことにマリアンヌは気づく。


 マリアンヌは扱いを変えるのを止めた。


 アドリアンは何でもオーレリアンと一緒にしたがる。


 マリアンヌはオーレリアンと同じように、アドリアンのことも大人として扱うことにした。


 2人には常に同じものを与え、同じことをさせる。


 その方がアドリアンは喜んだ。


 オーレリアンのことが大好きらしい。


 普通は逆だとマリアンヌは思っていた。


 双子は自分だけのアイデンティティを欲しがるものだと思い込む。


 相手とは違う別の人間だと、認識して欲しいのだと。


 しかしそれはマリアンヌの勝手な決め付けだった。


 そもそも、アドリアンは自分とオーレリアンを同じだなんて思っていない。


 別のものだと認識して欲しいなんて思うわけがなかった。


 一緒がいいと本人が言うなら、それが正解なのだろう。


 子育てにセオリーなんてないのだと、マリアンヌは悟った。




「そういうわけで、転生会の動きを探るために餌をまくことになりました」




 マリアンヌは実も蓋もない言い方をする。


 言葉を飾らなかった。


 どんな言い方をしても、パーティを開く意図は変わらない。


 耳障りのいい言葉は使いたくなかった。




「アドリアンを囮にするのですか?」




 オーレリアンは渋い顔をする。


 当然、反対した。




(そう思うよね)




 マリアンヌはオーレリアンの反応に安心する。


 真っ当だと思った。


 自分もそう思う。


 反対したかった。


 だが、アドリアンが国王になるまで、転生会の影はずっと付きまとってくるだろう。


 それはこれから先、何十年ものことだ。


 相手の正体がわからないままなのはなんとも気持ちが悪い。


 はっきりさせてしまいたかった。




「囮になんてしたくないわ。でも、相手の正体がわからないままこの先ずっと、転生会の影に怯えることになるのはもっと嫌だと思ったの」




 マリアンヌは説明する。




「2人はどう思う?」




 アドリアンとオーレリアンを見た。




「アドリアンとオーレリアンが嫌なら、もちろんそんなことはしない。誕生日のパーティは開くことになるけれど、2人には見知らぬ相手が近づけないようにするわ」




 マリアンヌは約束する。




「2人はどうしたいの?」




 子供たちに選ばせた。




「そんなの……」




 オーレリアンは断ろうとする。


 転生会は危険な組織ではない。


 だが、何が危険かなんて状況でいくらでも変わる。


 絶対の安全なんてなかった。




「いいよ」




 しかしその声を遮って、アドリアンが返事をする。




「転生会の正体がわかるなら、協力する」




 頷いた。




「危険だ」




 オーレリアンは渋い顔をする。


 アドリアンを止めた。


 しかし、アドリアンは引かない。




「転生会の正体がわからなかったら、オーレリアンが危険な目に合うかも知れないだろ?」




 そんなことを言う。




「え?」




 オーレリアンとマリアンヌは驚いた。




「転生会はたぶん、私に危害を加えることはない。でも、私のためにとオーレリアンに危害を加えるかもしれない」




 アドリアンはそれを心配する。




「確かにそうだけど……」




 マリアンヌは戸惑う顔をした。


 オーレリアンに危険が及ぶ可能性は考えなかったわけではない。


 派閥争いは相手を引きずり下ろすのが一番容易だ。


 アドリアンのためにオーレリアンに何かするのは考えられないことではない。


 だがマリアンヌは転生会がそこまですると思っていなかった。


 それを口にする。




「今はそこまでしなくても、今後はわからない。正体は突き止められる時に突き止めようよ」




 アドリアンは母に言った。




「それはそうね」




 マリアンヌは頷く。




「では、パーティの件は国王様の計画に乗るってことでいいのね?」




 息子たちに確認した。




「はい」




 アドリアンは返事をする。




「……」




 オーレリアンは渋々という感じで頷いた。


 そういう光景を最近、よく見かける気がマリアンヌはする。


 昔は膨大な記憶を持つオーレリアンにアドリアンが従っていた。


 だが最近はアドリアンが決めたことをオーレリアンが承諾するパターンが多い。




(子供の成長って早いのね)




 マリアンヌはちょっと暢気にそんなことを考えた。






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