第309話 外伝 第二章 パーティ
国王は双子の孫たちを溺愛していた。
ラインハルトに良く似たオーレリアンも賢王の肖像画に良く似たアドリアンもどっちも可愛い。
特にアドリアンは活発な子供で、元気だし、国王にも遠慮なく甘えた。
オーレリアンのちょっと遠慮しながら甘えてくるのも愛らしい。
そんな孫に国王はメロメロだ。
2人の7歳の誕生日を王宮で祝うと言い出す。
マリアンヌとラインハルトは王の執務室に呼ばれた。
パーティの相談をされる。
「ありがたい申し出ですが、お断りします」
マリアンヌは困った顔でそう言った。
室内はざわつく。
国王の頬がぴくりと引きつった。
表情は変わらないが、機嫌を損ねたのはわかる。
ラインハルトは心配そうに妻を見た。
結婚して何年も経つが、未だに妻の考えは読めない。
即答で断るとは思っていなかった。
ラインハルトは驚く。
国王はじっとマリアンヌを見つめた。
「何故だい?」
理由を尋ねる。
「不公平だからです」
マリアンヌは答えた。
「王家の子が一歳の誕生日を王宮で祝うことは知っています。新生児の生存を喜ぶ意味があるのでしょう。だからわたしも王宮で子供たちの誕生パーティを開いていただきました。でも、フェルナンデス様やリルル様の7歳の誕生日を王宮で祝ったとは聞いていません。うちの子たちだけ祝ってもらうのは、角が立ちます」
眉をしかめた。
「アドリアンやオーレリアンは皇太子の息子だ。他の孫と一緒ではない」
国王は区別があって当然だと言う。
「それは……」
マリアンヌは反論できなかった。
確かに筋は通っている。
だが、感情は理性では割り切れないものだ。
「フェルナンデス様がローレライに行った件で、ただでさえフェンディ様の第一妃には恨まれています。これ以上、感情を逆撫でするような真似はして欲しくないのです」
マリアンヌはため息をつく。
フェンディの息子のフェルナンデスはラインハルトが皇太子になった頃から度々遊びにくるようになった。
子供たちの相手をしてくれる。
そんなフェルナンデスがマリアンヌも可愛かった。
あれこれ歓待していたら、懐かれる。
それだけでも妃は面白くなかっただろう。
だが、表立って文句は言わなかった。
将来、国王やその跡継ぎになる子どもたちと親しくなれと言ったのは妃自身だ。
自分の言葉に従っている息子に文句は言い難い。
受け入れているマリアンヌに当たるのも筋が違うのはわかっていた。
いろいろ我慢しているであろうことはマリアンヌも察する。
だから、フェルナンデスから将来についての相談を受けた時は迷った。
それは自分にではなく、母親にして欲しい。
だが妃に相談しても、フェルナンデスの望みは叶わないだろう。
迷った末、マリアンヌは協力することにした。
父と暮らしてみたいというフェルナンデスの願いを無下には出来ない。
まずは母親と話し合い、説得することを勧めた。
時間はかかったが、フェルナンデスは母を説得する。
もっともそれは、母親が根負けしたというのが正確な表現かもしれない。
渋々、息子がローレライに行くことを母親は承諾した。
ただし、定期的に帰ってくる約束はさせる。
その一件で、自分が恨まれていることをマリアンヌは知っていた。
唆したと思われているようだ。
そんなつもりはもちろんない。
だが、父のことを知りたがるフェルナンデスにいろいろ話して聞かせたのは事実だ。
そのせいでフェルナンデスがローレライに行ってしまったと、責められたら言い返せない。
そんな微妙な時期に、息子たちの誕生パーティなんて勘弁して欲しいとマリアンヌは思った。
余計な波風を立てて欲しくない。
「しかし……」
国王は諦め切れないようで、何か言おうとした。
しかしそれをマリアンヌは遮る。
言葉を続けた。
こういうのは先に言ってしまった者が勝ちのようなところがあることを知っている。
「それに、転生会の動きが気になります」
切り札を切った。
その瞬間、部屋の空気が変わる。
急に重くなった。
「何かあったのか?」
尋ねたのは国王でなく、ラインハルトだ。
何も聞いていない。
マリアンヌを軽く睨んだ。
怒っている。
マリアンヌはしまったと思った。
ラインハルトにも話していないことを思い出す。
アドリアンの超記憶力のことはしばらく黙っていることにした。
何がどう子供たちの人生に影響するかわからない。
特殊能力はとりあえず隠しておくべきだ。
その流れで転生会が接触を図ったことを知ったので、伝え方を考えているうちに忘れてしまっていた。
「先日、アドリアンが妙なことを言い出したのです」
マリアンヌはどうやってラインハルトの怒りの矛先をかわそうか、考えながら言葉を紡ぐ。
アドリアンが転生について知っていたことを話した。
庭で仕事をしていた老人に、賢王の生まれ変わりだと言われたという話を後から聞いた事を伝える。
「その話、何故直ぐに私にしないのです?」
ラインハルトはマリアンヌを叱った。
「すいません」
マリアンヌは謝る。
叱られるのは尤もだと思った。
「わたしが聞いたのも直ぐのことではないのです。念のため、その庭師を探しました。しかし、どこにもいません。アドリアンと話をするために、庭師に扮していたようです」
その老人が何者なのか、わたしは探った。
だが、そんな老人はどこにもいない。
それがわかって、ぞっとした。
その時にラインハルトに話せば良かったのだが、2人を守ることで頭がいっぱいになる。
あれこれ対策を講じているうちに、話すのを忘れてしまった。
たまたま、ラインハルトが仕事で忙しかった時期で、タイミングを逃してしまったところもある。
「それならなおさら、私に話をするべきでしょう」
ラインハルトは怒るのを通り越して、呆れた。
やれやれという顔をする。
(ご尤もです)
マリアンヌは心の中で返事をした。
「とにかく、そういうわけなので不特定多数が集まるパーティは遠慮させてください」
国王に頼む。
「少し、考えましょう」
国王は返事を保留にした。
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