第208話 第六部 第一章 6 お茶会
クリシュナは声を上げて笑った。
貴族の女性が爆笑するのを初めて見る。
わたしは驚いた。
そんなにウケるとは思わなかった。
そんなわたしに構わず、クリシュナは笑い続ける。
ひとしきり笑った後、わたしを見た。
少し笑い疲れた顔をしている。
それがなんだか可愛らしくて、わたしも笑ってしまった。
2人で微笑み合う。
「そろそろ戻りましょうか」
クリシュナはそう言った。
「そうですね」
わたしは頷く。
ラインハルトは心配しているだろう。
わたしはゆっくりと立ち上がった。
身体が軽い。
大丈夫そうだ。
自分の身体なのに、自分で管理出来ない。
妊婦の大変さが骨身に染みた。
(今さらだけど、女性だけが妊娠や出産のリスクを負うのって不条理よね)
心の中で愚痴る。
男の人にもこの大変さを味合わせてやりたいと愚痴っていた妊婦の友達がいたことを思い出した。
あの時の彼女の気持ちがすごくわかる。
ラインハルトは何も悪くないと分かっているのに、八つ当たりしたい気分だ。
どちらが妊娠するか、くじ引きなりルーレットなりで公平に決めればいいのにと思う。
女性だけに背負わせるのは酷な負担だ。
人一人、身体の中で育むのが簡単なことであるわけがない。
「大丈夫?」
そんなわたしにクリシュナが声をかけてくれた。
「大丈夫です」
わたしは頷く。
クリシュナと一緒に客間に戻った。
国王と2人、お茶を飲んでいたラインハルトがこちらを見る。
「マリアンヌ」
立ち上がり、隣にやってきた。
支えるように、腰に手を回す。
「大丈夫ですか?」
問われた。
「もう平気です」
わたしは頷く。
ラインハルトはソファまでエスコートしてくれた。
腰掛ける様子をみんなに見られる。
注目を浴びるのがなんとも居心地が悪かった。
その他大勢のわたしのことはあまり気にせず放っておいて欲しい。
注目されるのはちょっと苦手だ。
だがもちろん、そんなこと言えるわけがない。
国王も心配そうにわたしを見ていた。
「顔色が良くなりましたね」
安堵を顔に浮かべる。
「ご心配、かけました」
わたしは謝罪した。
国王は小さく頷く。
自分の隣に腰掛けたクリシュナを見た。
クリシュナは小さく頷き、微笑む。
「体調が戻ったなら何よりです。クリシュナとも話が弾んだようですね。笑い声が聞こえましたよ」
国王は笑った。
隣の部屋の笑い声が聞こえたらしい。
「どんな楽しい話をしていたのですか?」
わたしではなく、クリシュナに聞く。
「女同士の秘密です。殿方には教えられません」
クリシュナは答えなかった。
余計なことは言わない方がいいのだとわたしは判断する。
「お2人は何を話していたのですか?」
自分の話になる前に、話を振った。
2人を見る。
「フェンディの話をしていたよ」
国王の口からは予想外の名前が出てきた。
わたしは驚く。
「フェンディ様がどうかしたのですか?」
わたしはさらに尋ねた。
クリシュナも気になるらしい。
「マリアンヌの言っていた東側地域へ滞在する話、フェンディがとても乗り気でね。実現しそうだよ」
国王は意味深にわたしを見る。
わたしが何かしたと言いたげだ。
だがわたしは何もしていない。
この件に関してフェンディとは話をしたこともなかった。
そもそも、結婚式の後にフェンディとは顔を合わせていない。
(わたしは何もしていませんよ)
心の中で、わたしは言い返した。
にこりと笑って見せる。
フェンディが東側地域に行きたいのはミカエルのためだ。
わたしのせいではない。
「上手くいきそうなら、何よりです」
そう言った。
「だが、いいことばかりではない」
国王は真面目な顔をした。
「3人の王子のうち2人も王宮を離れることになれば、そのしわ寄せはラインハルトに行くことになるだろう。フェンディの抱えていた仕事もある」
困ったようにわたしを見る。
(わたしには何も出来ません)
心の中でお断りした。
妊婦のわたしに無理を言わないで欲しい。
「マルクス様の引継ぎに関して、もう話は聞かれましたか?」
どこまで話が通っているのかわからないので、わたしは確認した。
「マリアンヌと話した内容はマルクスから相談されたよ」
国王は答える。
それはとても曖昧な表現で、どう判断するべきか迷った。
わからないから、都合のいい方に取ることにする。
OKと判断した。
わたしはにこりと笑う。
「同じように、クリシュナ様にお願いすることは出来ないのでしょうか?」
クリシュナをちらりと見た。
「何の話ですの?」
クリシュナは不思議そうに国王を見る。
「……」
国王は微妙な顔をした。
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