第120話 第四部 第三章 1 再会
帰宅するラインハルトと一緒に、フェンディはやってきた。
機嫌がいい。
ラインハルトからある程度の話は聞いていたようだ。
ミカエルが離宮に滞在することになったのももう知っているのだろう。
出迎えたわたしを見て、にやりと笑った。
「だいぶ人がいいな」
そんなことを言う。
ラインハルトと挨拶を交わした後、わたしはフェンディを見た。
「自分でもそう思います」
頷く。
「フェンディ様の目論見どおりですね」
恨めしげな目を向けた。
「そうだな」
フェンディは素直に認める。
ちらりと辺りを見た。
ミカエルの姿が無いことを気にする。
「ミカエルはどうした?」
尋ねた。
直ぐに会えると思ったのに、会えなくてがっかりしている。
「ミカエル様はお部屋です。長旅でお疲れでしょうから、夕食まで休んでもらっています」
わたしは答えた。
そんなわたしを今度はフェンディが恨めしげに見る。
「わざとか?」
問われた。
「何の話でしょう?」
わたしは首を傾げる。
恍けた。
「会わせないつもりか?」
フェンディは口を尖らす。
機嫌が悪くなった。
「まさか」
わたしは首を横に振る。
「ちゃんとご案内しますよ」
微笑んだ。
「ところで、今日はお一人なんですか?」
側近を連れていない姿に、違和感を覚える。
ラインハルトがルイスを伴っているので、なおさらだ。
「夕食を食べに来ただけだ。必要ないだろう」
フェンディは答える。
(つまり、邪魔だったということですね)
わたしは心の中で呟いた。
ミカエルといちゃつくのに、側近がいたら都合が悪いのだろう。
意外とフェンディは恋愛脳らしい。
怖い予感が頭を過ぎった。
(まさかと思うけど、泊るつもりではないよね?)
不安を覚える。
だが、泊らないですよね?――なんて聞けるわけがない。
(まあ、その辺りはラインハルトかルイスがなんとかするだろう)
離宮から朝帰りなんて不味い気がするが、わたしは丸投げすることにした。
余計なことをすると大事になることは経験している。
こういうのは任せるのが一番だ。
「ご案内しますか?」
どこにとはあえて明言せず、フェンディに尋ねた。
「ああ、頼む」
フェンディは嬉しそうな顔をする。
久しぶりに会うのかもしれない。
わたしが案内しようとすると、アントンがすいっと行く手に立ちはだかった。
「私がご案内します」
そう言う。
執事の仕事だと言いたいらしい。
アントンの言い分は尤もだが、わたしはこの役を譲るつもりはなかった。
何故なら、わたしは恋人たちの再会をこの目で見たい。
「いいえ。アントンは旦那様の着替えを頼みます。案内はわたしがしておきますわ」
にっこりと微笑んだ。
アントンには他に仕事があるので、代わりにやっておきますよ的なニュアンスを滲ませる。
だがその言葉が言い訳であることはわたしを知る人にはばれているのだろう。
ラインハルトは仕方ないという顔をした。
ルイスは呆れている。
わたしはそれらを全て無視した。
わたしは二人の感動の再会シーンを見るために、出迎えの時にあえてミカエルに声を掛けなかった。
声を掛ければ、ミカエルは一緒にフェンディを出迎えると言っただろう。
だが、人前で二人が感動の再会を見せてくれるとは思えない。
関係を知っている人間の前だとしても、二人は感情を押さえるだろう。
それではわたしがつまらない。
感動の再会シーンをわたしはかなり期待していた。
そういうのは部屋で二人の方がベストだと思う。
それをこっそりわたしは覗き見するつもりでいた。
(フェンディ様の思惑に乗っかったんだから、これくらいのサービスはあってもいいよね)
わたしは心の中で呟く。
フェンディを客室に案内した。
トントントン。
客室のドアをわたしはノックした。
だが、返事がない。
どうやら寝ているようだ。
わたしはちらりとフェンディを見る。
「寝ているのかもしれません。どうしますか?」
問いかけた。
「構わない」
フェンディは答える。
「では」
わたしはドアを開けた。
中を見る。
ミカエルを探した。
ベッドに盛り上がりが見える。
やはり寝ているらしい。
「ミカエル様。フェンディ様がお越しです」
中に向かって、声を掛けた。
けれどやはり反応はない。
「……」
フェンディは無言でわたしの横を通り抜けた。
部屋の中に入って行く。
わたしはその後をついていった。
フェンディは真っ直ぐベッドに向かう。
ミカエルが寝ているのを確認して、腰掛けた。
そっと手をミカエルの頬に伸ばす。
優しく触れた。
「ミカエル」
呼びかける。
「んっ……」
小さな声が聞こえた。
ミカエルが目を覚ます。
「フェンディ様」
にこりと微笑むのがわたしからも見えた。
笑顔がとても優しい。
今までで一番綺麗な笑顔を見せてくれた。
それは愛が溢れている。
わたしはちょっと感動した。
フェンディは黙って、ミカエルに顔を寄せる。
キスするのだと気づいて、わたしは背を向けた。
さすがにこれ以上は申し訳ない。
そのまま退室した。
「夕飯の準備が出来ましたら、呼びに来ます」
それだけ伝えて、ドアを閉める。
(なんかアダルトだった!!)
心の中で叫んだ。
予想以上に大人な雰囲気の再会シーンに、わたしはドキドキした。
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