胡麻の廃屋 18

廃屋の探索から数日が過ぎた。

案内所は相変わらず暇で、朝は花子の散歩をして篠崎さんが買ってきた弁当とおやつを頂く。

パソコンで書類を作成するフリの所長の世間話が室内に響く。

 ずっと悩んでいる。

探索を終えたあの時、意思に関係なく飛び出た言葉。

自身が把握していない変化。

相談相手が居ない悩み。

変わらない日常。その時間の流れから顔を出して流れを僅かに歪ませる突起。

座りながら指をもじもじ絡ませていると、花子が足下に擦り寄ってきた。

甘えてくる花子の頭を撫でている間は、悩みから目を背けられる。

おーよしよしと撫でると、返事をするように真っ直ぐ見つめてくる。

あぁ、花子。

きょとんと首を傾げるお前は、僕の心を見透かして癒やしてくれているのか?

「そういえば、花子って何歳になるんですか?」

艶々としたからまだ若いとは推測できる。

「やだなぁ杉ちゃぁん。女性の歳を聞くなんてねぇ」

花子は確かにメスではあるが、そんな咎められる質問だったか?

失礼な質問をされたらしい当の花子は「撫でて」と擦り寄ってくる。

 篠崎さんが回答するのを期待していたのに。

ぶっきらぼうに答えられて、そこから会話を広げる自信は無いけど。

彼女は探索を終えた日から煙草を一切吸っていない。

健康の為の禁煙なら歓迎だ。

そうではなくて、煙草を吸うのすら気怠げで。

買い出しの時以外は、ぼおっと明後日の方を向いている。

 篠崎さんは独りでに出た言葉の意味も原因も知っている。

突飛でも直感的に確信していた。

「あの……篠崎さん…」 

目線が天井から僕に移ったのを確かに確認できたその瞬間だった。

「篠崎さんと杉原さんは居ますかぁ!」

勢い良くドアが開かれて案内所の壁を揺らした。

昼下がりの光が差し込む。

「皆さんお揃いでなによりです!お願いします!助けてくださぁい!」

涙声の主の影が床に伸びる。

当たり前だけど人型の。

一瞬、違う影に見えたのは気のせいか?

例えばそう……。

「私もう!あんな廃屋にぃ行きたくないんですょおー!」

あぁ、可哀想に。

毎日欠かさず掃除をしているからひどく汚れてないが、床は床だ。

膝を折って背中を丸め顔をくっつけて泣くには適さない。

白木さんの格好は探索した時のままだった。

所長に「まあまあ」と宥められて泣き止むまで10分以上はそのままだった。

篠崎さんの目線は天井に戻っていた。

花子は眠る。

この一人と一匹、どうにも白木さんに対して冷めた態度をとるのだ。

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