そして、悪魔は探してる。
森の中で目を覚ました。
朦朧とする意識の中で俺は目を覚ます。あたりは暗い。夜に包まれた森の中は妙に静けさに満ちている。
木々が溢れ、花が咲き誇る森の中。
ああ、此処はメアリと過ごした森の中だ、そう実感する。
意識は何処かうろ覚えだけれども、それでも確かに覚えている、『悪魔』である自分がある少女と過ごしていた記憶を。
この森の中で力を失い、そしてその場で俺は目を覚ましたのだ。
あれから何年が経った? 知る必要がある、今を。そして探さなければならない、メアリの事を。
『見つけて』
それが死に際にメアリの言った願いであったから。しかし探すにしても、人里に行くのは危険だ。また勇者が現れていないとは限らないし、人里には彼らを好む精霊が多い。俺は悪魔だ。
悪魔が人里に居るのは危険だ。勇者にしか力を弱められないにしても、人間は数が多い。つかまる可能性だってある。黒髪黒眼の人間はあまりいない。悪魔は全て黒髪黒眼だ。だから、勇者以外の黒髪黒眼は迫害される傾向にあるとも聞く。
それでも、見つけなければならない。約束したから。
探すんだ、見つけるんだ。でも、メアリは覚えているだろうか。この世界では前世の記憶が夢に現れるというけれど、はっきり覚えてるかどうかはわからない。どっちにしろ、メアリは精霊に愛されないから魔法が使えないはず。また前の時みたいに家から追い出されてる可能性もある。
メアリ、メアリ。何処に居る。確か前世の名前は、犬塚奈美だったか。どれぐらい寝ていたかわからないけど、覚ていたいと思っていたからあの子との記憶は確かに残ってる。
悪魔としておかしいって、言われようと知った事か。俺にとってメアリは特別だった。ただメアリは穏やかに暮らすことを祈ってた。
異世界に放り出されて、死んで、それでも救われなかったメアリ。
生まれ変わっているというならば、姿形は変わっているはずであるし、世界は広い。見つかる可能性は低い。それでも、メアリが他の悪魔にとりこまれるほど絶望する前に見つけなきゃいけない。
もしメアリが絶望したなら、他の悪魔に魅入られる可能性がある。他の連中は俺とは違うだろう。メアリを狂わすだろう。
「……近くの街からめぐるか」
つぶやきを発して、一旦メアリと作った小さな家に向かう事にした。もし覚えているなら此処に来てくれるんじゃないかと期待して。でもその場所は何も変わっていなかった。
時計はもう、動いてもいない。
本当に今はいつなんだろう。どれくらいたったのだろう。情報が居る。今がいつなのか、とかそういう情報が。
何か情報の手がかりでも家の中にないかと探すが、見つからない。
仕方がなく、家を出る。メアリを見つけたら、また此処に来ようと誓って。
それから俺は危険だろうが、人里を見て回った。ドワーフなどの里も見て回ったが、『精霊に愛されない』という噂さえ入ってこなかった。
それに歯がゆい思いを感じながらも、俺は必死に探した。目覚めてから二年近くが経つ。あのメアリの妹が異世界に帰還して64年。
この間にメアリが生まれ変わってなかったのだろうか、これから生まれるのかまだ見つけてないだけかわからない。
早く、見つけたいのに世界は広い。
見つからない。何故。何処にいる? まだ生まれていないのか? だけど、約束さんだ。見つけるって。
それから、ずっと探しまわった。探し始めて10年以上経った。だけど見つからなかった。そんな中である噂が俺の耳に入ってきた。
『エルフの王族の姫の一人は呪われている』という、その噂。
いわくエルフの王族として生まれたにも関わらず、精霊に嫌われ祝福を受けなかった少女が居るのだという。
まさか、と思った。エルフの王族としてあの子が生まれていた…? 驚いた。エルフの王族は最も精霊に愛されると言われていたのだから。そんなものとしてメアリが生まれていただなんて。
聞けば、エルフの里から居なくなったらしい。人里の中では処刑されたとか、逃げ出した、とか擦れられたとか色々噂は回っているらしいが…、今どうなっているのだろう。
逃げ出したというなら、『エルフだけれど精霊に愛されていない』存在を探せばあの子にたどり着くだろう。
探そう。折角情報が手に入ったのだ。魔法の使えないあの子は無力だ。そもそも記憶はちゃんとあの子に残っているのだろうか。残っているにしろ居ないにしろ、絶望したメアリに他の悪魔が契約を持ちかける可能性もある。
……それは、嫌だ。あの子が、他の『落ち人』のように狂うのは見たくない。エルフの里からあの子が消えたという噂が出回ったのは最近らしい。エルフの里に悪魔の俺が行くのは危険だが、近くを探す必要がある。
絶対、見つけるから待ってろ。絶対、会いにいくから。それまで死なないで、他の悪魔と契約しないで、どうか生きてくれとただ願う。
ああ、本当に悪魔の俺がこんな風に人を案じてるなんて滑稽だ。それでもメアリと過ごした日々が、ずっと頭に残ってる。
俺はあの子を大切に思ってる。
絶対に、俺はメアリを見つけてみせる。
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