二人がただただ駄弁るだけ

ここみさん

始業前

「昨日見てた番組で結婚についてやってたんですよ」

私は教室に入ってすぐに、自分の席に荷物を置きながら隣の席の藤ヶ谷君に話しかけた

彼は何も言わずに、読んでいた本から顔を上げる

「藤ヶ谷君って、結婚願望とかありますか」

「いや、今のところは特にないな。恋人とかも欲しいと思ったことはない」

「えー、16歳の男子の頭なんて女の子のことしかないんじゃないんですか。女の子のおっぱいとかお尻とか」

「全国の16歳男子に謝罪した方が良いな。そういう赤羽はどうなんだ、結婚願望とかは」

「私も今のところはないですね、男性ともお付き合いしたいとも思いませんし。でもあれですね、こういう考えのまま社会に出るから、結婚しない人とかが増えるんでしょうね。少子化問題の加速ですよ」

「社会に出れば多少は考えが変わるんじゃないか?一人が寂しいとか、恋人と社会的な契約が欲しいとか」

「うーん、その時になってみないと分かりませんが、そんなこと考える自分が想像できませんね」

「だな、俺もだ」

「そうだ、なら自分の理想の結婚生活とか考えてみません?」

「恋人がいない俺たちがやっても虚しいだけでは」

「一人でやったらそうかもしれませんが、二人でやったら傷が半分になりそうじゃないですか」

「どういう理屈だよ。普通に二人傷つくだけだと思うんだが。だがそうだな、理想の結婚生活か」

「私はですね、理想の男性と一緒におしゃべりしたり、討論したり、ディベートしたり」

「ほとんど同じだろ、どんだけ喋りたいんだよ」

「…他にもいろいろ考えたんですけど、食事とかお出かけとか、でも別にどれも結婚した後にやる必要ないですね」

「そうだな、俺もちょっと想像してみたが、社会的な契約を結ばなくてもできることばかりだ。極論同棲と結婚の違いはイマイチ分からない」

「ですよね。因みにどんな想像したんですか?」

「別に大した想像はしていない」

「教えてくださいよ、思春期真っただ中の男子の妄想を」

「嫌な言い方をするな。女子から男子に対する発言でもセクハラは成立するからな」

「あはは、すみません。それでそんな想像したんですか」

「一緒にお店をやりくりして、厨房とフロアをせわしなく動く俺と理想の女性の姿だ」

「結構ドラマみたいな想像してますね、それより、飲食店を経営したいんですか、初耳なんですけど」

「教える必要ないだろ」

「でもそれだと、結構同棲と結婚は違いません?」

「…確かにな、結婚すると人件費が浮くが同棲だと相手の対応によるが給料を支払わなくてはならないな。なら結婚した方が得か」

「同棲だったら、普通に相手さんは別の所に働きに出ると思うのですが。まぁ、つまりはこういうことでうよね、結婚すると家族になるってことですもんね。他人じゃなくなるってことですもんね」

「もっと言うなら、他人という括りに入れたくないという異性ってことだろ」

「なんか、それはそれで重いですよね。自分の人生を他人に預けるのも、預かるのも」

「全くだ。異性に興味がないといえば嘘になるが、結婚は遠慮したいものだ」

「結婚したくはないけど女性とは付き合いたいって、女遊びがしたいって言っているような気がしますけどね」

「……確かに」

そこでHRの合図のチャイムが鳴った

以上、恋愛経験がない二人による偏見に基づくお喋りである

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