第2話 ギフト
馬車に乗り込んだソウは、神殿のあるローザに向かって出発した。ローザは、イグニス王国の辺境の街。周辺には多くの魔物が存在、そして、エトワール帝国に隣接している街だ。ローザへの道のりは、馬車で2日。
馬車で近くに座っている冒険者のような風貌の男たちが話しかけてきた。
『坊主、もしかして神殿にギフトをもらいにいくのか?』
『うん、そうだが』
『そうか、それは楽しみだな。ギフトは今後剣士として大成したいなら持って損はない。まあ俺はこう見えても上級剣術のギフト持ちだ。非常に助かっているというのは経験者のお墨付きだ。』
『まあそんなギフトを持っていてもまだランクD止まりだがな』
別の冒険者が少しからかうように茶々を入れる。上級剣術のギフトは相当良いギフトなのだ。
『ふっ、今にCランクに昇格してみせら』
冒険者には、ランクがありS〜Gまでのランクがある。(説明ではLegendは除く)冒険者はEからCまでがボリューム層である。一般的には、Cランクで上級レベル冒険者、Dランクで中級レベル冒険者、Eは一人前の基準とされることが多い。つまり、この冒険者は一人前と言われる、しかもその中の中級冒険者だということだ。
ソウは会話からこの冒険者たちは比較的、人が良い冒険者だと判断する。
冒険者によっては、力を見せびらかし、弱いものを下に見るような輩が多いという噂をよく耳にしていたからだ。
『まあ、坊主、いいギフトを貰えなかったとしても落ち込むな。ギフトは全てじゃない。高ランカーにもあまりいいギフトじゃない奴もいるしな』
『うん』ソウがそう言おうとしたその時、『襲撃だー!』そんな声が聞こえた。この辺は、辺境であるためモンスターが出ることは少なくない。冒険者たちがすぐさま飛び出す。それに続きソウも飛び出した。冒険者のうち一人がソウを止めるが、そんなことは気にもせず、飛び出した。モンスターはゴブリン。ソウがよく昼に倒していたモンスターだった。冒険者たちは、ゴブリンに斬りかかろうとしているソウの姿を見て、危ないと声を上げたが、それは杞憂であったことを思い知らされる。
ソウが剣を抜き、ゴブリンを斬る、その一連の動作がまるで演舞のように滑らかで軽やかで、剣を振るうソウのオーラがすでに剣士のそれであったためだ。ギフトのない10歳の子がこれほどまでに洗練された剣の腕をしていたことから、ソウが今までどれだけの努力をしてきたかということを想像するのは難しくない。
その後、冒険者と共にゴブリンを倒し、馬車に戻った。
『いやー、驚いたぜ、まさか10歳であそこまで剣を使いこなしているとはな。ほんとにまだギフトもらってないんだよな?下手したら、上級剣士のギフト持ちである俺よりいい動きだったぞ。まあ動きに限った話で実力は別だが。』
『そうか、まあ村ではずっと訓練してたからな。それに俺は、Legend級冒険者になるんだ』
ソウが当たり前の目標であるかのようにその言葉を発する。
『おいおい、それはまたでっかい夢だな。Sランク冒険者さえエルドラードに3人しかいないのに。このイグニス王国にはSランクは一人しかいないぞ。』
『まあそんなものか。まあそういうのは関係ない、俺がどうなるかだ。』
冒険者たちは、自分達は比較的ギルドの中でも有望と言われる部類であるのにもかかわらず、ランクを上げていく厳しさは常々感じてきた。そんな冒険者だからこそ、ソウの言葉を聞き、何も言葉が出なかった。sランク冒険者ですら、想像を絶する壁があるというのに。
そんな会話をしながら馬車は進み、2日が立ち、ローザの街に着いた。
街に入る検問では、村長の証明書を見せた際、苗字持ちということで少し驚かれたが、特に何かあることはなく、いいギフトが貰えるといいなと言葉をくれた。
ずっと村での生活をしていたため、初めて見る街の光景には驚かされたが、カイザーから話は聞いていたため、あまり田舎者感丸出しではなかったと思う。たぶん
門を通りまっすぐ神殿に向かったが、神殿の前の広場には多くの子供と親がいた。正午から始まるようだが、初めは貴族からなので広場で少し待っていることになった。
「君も剣を使うのかい?」
広場で待っていた時、声をかけてきた少年がいた。
「うん、そうだな、小さい頃から剣一筋だよ」
突然声をかけられたことに、少し動揺はしたが、広場にいる多くの人が両親や友人と一緒にいる中、1人というのはソウとしても寂しく感じており、せっかく話しかけてきてくれた少年と話を弾ませる。
どうもこの少年の名前はマインというらしい。村で剣の道場に入っていて、1番の腕であったことを誇らしく、しかし謙虚そうに語っていた。
マインは、ギフトでは上級剣術と、身体強化魔法をねらっているようだ。
少しすると貴族の馬車が集まっていき、儀式が始まった。初めはどうやらこの街を治めている伯爵のご令嬢のようだ、神殿の中央に立ち、神官からギフトを告げられる。『汝のギフトは、上級火魔法、上級風魔法、光魔法』その瞬間歓喜の声が広場中に広がった。3つのギフト持ちに加え、基本属性魔法二つは上級のランクのものだった。
その後、他の貴族も儀式を行なったが、伯爵の令嬢に匹敵するものは全くいなかった。そして、平民の儀式が始まった。平民は来た順に行われるらしく、比較的遅めに来たソウとマインは、行われている儀式を見ながら順番を待っていた。
その中でも、良いギフトの二つ持ちやある程度良いギフトを一つでももらったものは、いかにも偉そうな人に声をかけられていたので、学校などの引き抜きだろう。
基本的に、10歳でギフトを貰った者の進路として、優秀な人は魔法学校や騎士学校に入る。その後、冒険者や騎士団、魔法団などに入る。これらのルートは叶わないが、戦力として活躍したい場合は15歳まで自力で鍛え、冒険者になり実績を積むしかない。もちろん、生産系や使えないギフトをもらい、これらの道を諦める人が大多数なのも事実ではある。
ついに、ソウたちの順番がやってきた。
まずはマインからだった。神殿の中央に立ち、神官からギフトを告げられる、『汝のギフトは、上級剣術、身体強化魔法」少し周囲から「おおっ」という声が上がった。ギフトの二つ持ちは珍しくないが、良いスキルを二つ、それも上級剣士と身体強化魔法という明らかに組合せのいいギフトであったためだ。
マインは次に控えるソウに笑顔でピースをする。その仕草は10歳児らしく、そして待ち時間の間にソウとマインの仲が結構良くなっていることを表していた。
そんなピースのマインにソウはグーのポーズで返す。そしてついにソウの順番だ。
神殿の中央に立ち、神官からギフトを告げられる、『汝のギフトは、気魔法‥以上だ』ギフトは一つ。しかも、気魔法というもの。村で剣ばかりやっていたソウには全く分からなかった。ソウが待っている間にも、気魔法のギフトをもらっている人はいなかった。
あからさまにソウは落ち込み、マインの方に目を向けるが、マインはすでに偉い人に囲まれており、スカウトされているのが分かった。
マインは、スカウトを受けながらも仲良くなったソウの結果を聞きソウを心配し、目を向けるが、目が合わず。次の見たときには、ソウはもうそこにはいなかった。
神殿の周りにいる、いかにもスカウトをしようとしている大人が全く動いておらず、こっちに来ていないということは、魔法としてもあまり良いギフトではないのだろう。ソウとしては、イグニス王国隋一の「イグニス王国立フィエルテ魔法・騎士学校」に入りたかったが、あそこはそもそも推薦状がなくては入学試験すら受けられないのだ。諦めるしかない。そう自分に言い聞かせた。
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