第59話 同好の士

 オルドンでも他の貴族のご令嬢たちに絡まれたことはあるものの、普通にスルーしていた。彼女たちもそれ以上に絡んでくるわけでもなかったし、いたずらをされたりもなかったから。

 今回みたいに呼び出されて、とかは初めてだったけど。


「レイ姉さん、大丈夫だった?」

「ありがとう、ベイス。」

「まったく、お里が知れるというものですわ」

「メンゼン様、お手数をおかけして申し訳ございません」

「まぁ、お気になさらないで。できれば、私もベイス様同様、エリザベス、と呼んでいただきたいわ」


 私がヴェリーニ侯爵令嬢たちに呼び出されたことに気付いた、同じクラスの女子が、わざわざベイスのところまで知らせに行ってくれたらしい。高位貴族が多いクラスなのに、きっと、勇気がいっただろうに。後でお礼をしなくては。

 しかし、それよりも気になるのは、なぜ、メンゼン侯爵令嬢も一緒なのか、ということだ。


「えと……失礼ですが、メンゼン様とベイスはどういったご関係で……」


 もしや、私が知らないだけで、2人は恋仲だとか……。


「変なこと考えないでね。レイ姉さん」

「私たちは同好の士なのよ」

「同行の士?」


 ちょっと想像してたのとは違う関係らしい。

 というのも。


「私たちは、『レオン・バーンズ様を愛する会』の会員なのです!」


 ……は?


「レイ姉さんの父上、僕にとってのレオン伯父さんは、憧れの存在なんだ!」

「ええ! 国王陛下が視察中に暴漢に襲われそうになった時、勇敢に立ち向かい、多勢に無勢の状況でも最後まで諦めず、国王陛下を守り切ったという話は、有名なのですよ!」

「騎士を目指す者の憧れだよ」


 なんか、凄い話が盛られている気がするんだけれど、まさか父さまの話がここまでネタにされているとは、知らなかった。

 ベイスも、なんか、目つきがいっちゃっている。


「それも、貴女の……もう、レイ様でよろしいわよね? レイ様の身の上のお話までついて、それはもう、今、社交界の女性たちの話題はバーンズ家の話で持ちきりなのですわ!」


 ――私の身の上まで、モリモリなのか。


 なんか、青い空を見上げて現実逃避したくなった。

 そんな私のことをそっちのけで、ベイスとエリザベス様が盛り上がっているよ。

 

「ですからね、ぜひ、我が家のお茶会にいらして欲しいの」

「……え?」

「大人数にはいたしませんわ」

「いや、あの、私、父の話ができるほど、記憶になくて」

「まぁ」

「父は私が生まれてすぐにアストリアに行ってしまって、そのまま戻らなかったので……」


 正直、期待されても、何も話せない。


「ごめんなさい! そうとは知らず、私だけで勝手に盛り上がってしまって……」

「いえいえ。でも、その、皆さんのお話を聞けたら嬉しいかなと……」

「……ええ、そうね! ぜひ、私たちの知っている、貴女のお父様のお話をさせて頂きたいわ! それには、当然。ベイス様も同席してくださいませね?」

「え、ぼ、僕もですか!?」

「当然ですわ! 同士なのですから!」


 ……エリザベス様は、思った以上にパワフルな方なんだなぁ、と、つくづく思った。

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