第44話 祖父母の話

 その後、男爵家からさっさと出てきた私たちは、なぜかダルン侯爵家へと向かうことになった。

 先行する立派な馬車の後ろを、サカエラのおじさんの馬車がついていく。平民とはいえ、豪商ともいえるサカエラ商会の馬車だ。それほど見劣りはしないと思う。

 男爵家での会話に、まったくついていけてなかった私とショーンさんは、短い移動の間に、サカエラのおじさんがダルン侯爵から聞いた話を、少しだけ教えてくれた。


 私の祖父にあたるロベルトは、マイア―ル男爵、当時はマイア―ル伯爵家の跡取りだったそうだ。そして祖父の乳兄弟となるのが、祖母にあたるニルデ。

 乳母であるニルデの母は、元は男爵家のご令嬢だったのだとか。別の同じ男爵家へと嫁いだものの、生まれたのが女の子だっただけで離縁されてしまった出戻りだったそうだ。

 その乳兄弟のニルデと恋に落ちたロベルトの結婚は、当然、曾祖父母に反対された。ロベルトの成人とともに、強引に他の家の令嬢と婚約させられそうになったのを機に、駆け落ちをして逃げ出したんだとか。


 苦労して平民として生活をしていた祖父母は、たまたま先代のダルン侯爵と再会をした。

 先代のダルン侯爵はもう亡くなられているそうだが、あの曾祖母の実兄に当たるのだとか。

 元々、祖父のロベルトは先代侯爵に見込まれていたらしく、何度か伯爵家に戻るように言われたらしい。しかし、過去に何度か、祖母が伯爵家で危ない目にあっていたことと、当時、すでに妹が結婚して婿養子をとっていたこともあって、このまま平民として生活することにしたのだそうだ。

 それでも、何かあったら頼るように言ってくれた先代侯爵の言葉が、今でも生きているのは、祖父母のおかげなのかもしれない。




 ダルン侯爵家に着いてみると、エントランスフロアにはファルネーゼ子爵夫人が待ち構えていた。すでに40歳を過ぎているというのに、相変わらずの美貌。私だけでなくショーンさんもため息が出そうだ。


「レイ! 無事だったのね!」

「え、は、はい。あの、なぜ夫人が……」


 心配そうな顔で私の方へとかけよる夫人に、私のほうも戸惑いを隠せない。


「兄から聞いたのよ。マイア―ル男爵家がレイに絡んできてるって」

「な、なるほど……あの、ふ、夫人、苦しいです」


 なぜか、ギューギューと抱きしめられる私。夫人の豊満な胸に窒息しそう。


「ファルネーゼ子爵夫人、レイが」

「ま、まぁ、ごめんなさいね……サカエラ殿、今回は兄に連絡してくれてありがとう」

「いえ、こちらの方こそ、侯爵にご足労いただいてしまい……」

「こら、ミシェル、いつまで、そこで立ち話をするつもりだ」


 フロアで立ち尽くしていた私たちに、侯爵が呆れたような声をかけてきた。


「あら、そうね。さぁ、サロンの方へ行きましょう……どうせ、あちらでは落ち着いてお茶も飲めなかったでしょうから」


 ニッコリと微笑むファルネーゼ子爵夫人に、私たちも苦笑いを浮かべるしかなかった。

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