第8話 サカエラおじさんの息子(2)

 二十歳にもなる男が、なんか喚いてる。

 子供かよ、と突っ込みたくなる。


「……なんで私がいると離婚になるのよ?」


 当然、私が口にする言葉。

 そもそも、私がおじさん夫婦の離婚理由とか、わけわかんないんですけど。


「だって、お前は父さんのだろっ!」

「はぁ?」


 ……つくづく、私は誰かの隠し子扱いされるらしい。


 こう続くと、何か呪われてるんじゃないかって、思ってしまう。

 おじさんも、ショーンさんの言葉に呆然としたかと思ったら……爆笑しだした。そして、つられて私も。


「な、なんで、笑うんだよっ」


 どんどん怒りで顔を赤くしていくショーンさん。


「どこから、そんな話になったんだか……ああ、あいつか」

「あ、あいつ、なんて言うなっ。そうだよ、母さんが言ったんだ。離婚したのは、父さんが浮気したから、子供ができたからって」

「はぁ……」


 大きくため息をついて、私は立ち上がった。前髪をあげて、ショーンさんを見つめる。


「私のこの目の色は、さすがにサカエラのおじさんからはもらえるものじゃないと思うんだけど?」


 ショーンさんは、驚いた顔で私の目を見つめた。


「だいたい、私とサカエラおじさん、全然似てないじゃん」

「なぁ? まぁ、私とショーンもあんまり似てはいないが」

「もしかして、母親似?」

「だなぁ」


 私とサカエラのおじさん、二人で話が進んでいく。


「まったく……お前は、小さい頃からあいつが大好きだからなぁ。あいつの言ったことを鵜呑みにしてきたんだろうけど」


 おじさんは落ちていたメガネを拾うと、私に手渡した。素直に、そのままメガネをかけた私。


「あいつが勝手に勘違いしたんだよ。まったく、誰が親友の奥さんに手を出すものか。旦那を失くして一人で子供を育てている女性に、手助けしたいと思うのは当たり前だろうが」


 おじさんの怒りは、今度は元の奥さんのほうに向かった。


「だ、だって、母さんがっ」

「母さん、母さん、言うのもいいかげんにしろっ。お前が帰国したのだって、どうせ、あいつが新しい彼氏でもできて、邪魔者扱いされたんだろ」


 どんだけお母さん好きなのよ。

 ちょっと、私でも引くわ。カッコいいのに残念感が半端ない。

 なんて思ってたら、おじさんの言ったことは、図星だったのか、ずっと我慢してたのか、ショーンさんの瞳から、涙がポロリポロリと零れだした。


「えっ」


 さすがにおじさんも、ショーンさんが泣くとは思っていなかったのか、固まってしまってる。


「おじさん、言いすぎっ!」


 引いてた自分を棚に上げ、私は、おじさんを睨みつけると、ショーンさんのそばに立った。差し出したハンカチを素直に受け取るショーンさん。


「とりあえず、部屋に行きましょうか」


 私よりもずっと大きいショーンさんの背中を押して、私たちはゆっくりと階段を上った。

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