55.捕らわれた女王

 教会の地下基地から次々と投降してくる女王派の兵士達を取り囲むようにして革命軍あ兵士の銃口が並び、捕虜となった兵士はトラックへと乗り込んでいく。

 最後に女王が出てくると、フォークが前に出て恭しく礼をした。

「女王陛下はこちらへ」

 革命軍が用意した王室専用のロールスロイスへと導く。

 憮然とした態度でそれに乗り込んだ女王の前に、フォークと革命軍の精鋭兵士が座りあ込んで銃を向けた。

「さすがのあなたも肉親を見殺しにすることはできませんでしたな」

 口の端をつり上げ笑うフォークを、女王はむしろ冷静に見つめた。

 トラディッチから送られてきた映像には、顔を腫らし、縛られた椅子の上でうなだれるエリサ。その体には鉄製の枷で止められた特殊な爆発物が装着されていた。

 その複雑な爆発物を手で乱暴に揺すって見せるトラディッチ。

 現在のソビエト技術で極限まで最小化された、LTW(局所型熱核兵器)と説明された。

 エメトリア市内で使用すれば住人の三分の一程度は爆発に巻き込まれ、市内の大半は深刻は放射能汚染に見舞われる。

 エリサを反革命が実行支配する市内のエリアに置き去りにして、爆発させるというのだ。

 今、女王が投降し、国民に対して革命軍に従うよう演説すれば、家族と反革命派の命の保証だけはするという。

 女王の究極魔法、国民全員を狂戦士と化し、武器をとって戦わせることができる、国民総動員を最後の手段して選択する意見もあった。

 娘のことはもう諦めたつもりだった。

 しかし、殴られ血を流してうなだれる娘の様子は、女王が母性を取り戻すには十分な映像だった。

「約束は守ってもらいますよ」

 エリサと同じように、能力を封じる首かせをつけられた女王が、エリサと同じそのブルーの瞳でフォークを捕らえた。

 その眼圧に一瞬たじろんだフォークだったが、

「それはあなた次第です。陛下」

 わざと怒鳴るようにして言い放ち、己の気持ちを奮い立たせる。しかし、そのプライドを傷つけることには成功したようだ。

 この男とトラディッチだけは…

 クラリスが女王として最後の責務を心に決める。

 見慣れた町並みを通り、車はエメトリア城へと向かっていった。


 LTWをつけられたまま部屋に戻されたエリサを出迎えるようにして、幼い少女が駆け寄ってきた。

 よろけるエリサの体を支えて、ベッドへと運び、腫れてた顔に絞ったタオルを乗せる。

「大丈夫?さっき、お薬をくれるようたのんだんだけど」

 心配そうにエリサの顔を覗き込んだ。

「ありがとうアナ」

 かすれ声でエリサが応え、まだ幼いカーラの娘に眼を向けた。

「私たちこれからどうなるのかな。お母さんはどこにいるかな」

 カーラの娘であるアナことアナスタシアも、ニコライの研究所からエメトリア城へと移される際に、一緒に連行されてきたのだった。

 エリサもアナもニコライの毒牙にかかる寸前だった。

 もしあと一日、トラディッチの移送命令が遅ければ、あの忌まわしい実験へと供されていただろう。

「わたしもあなたや、お母さんみたいに魔法が使えれば良かったのに」

 まだ能力の発現が確認されていないアナはエリサと違い、能力封じるための首輪がつけられていなかった。

 エリサが優しくアナの頭をなでてやる。

「大丈夫。助けがすぐそこまできているわ」

 戦闘で騒然とする城内を引きずられるようにして移動する中、他の兵士達が話していた内容を聞いてエリサは耳を疑った。

 日本の高校生達が研究所を崩壊させ、革命軍の精鋭達を駆逐しながら城内を侵攻してきていると。

 はじめは冗談かと思っていたが三人の容姿を聞いて、東京の高校で出会った彼らだと確信する。その姿は沖田と日本で観た映画の主人公達と同じだった。

 信じられない思いと同時に、沖田はあまり話したがらなかったが、ところどころ聞いたイラクから脱出した際の壮絶な訓練と受けた呪いの話。

 世界有数の戦闘訓練を受けた革命軍の、しかも完全装備の部隊を駆逐できる高校生など日本にいるはずがないが、沖田達が冗談めかして話していた内容が本当ならそれも可能だと思った。

 女王は自分が人質となったとしても、革命軍への抵抗はやめないだろ。それが女王の責務である以上当然のことだ。

 しかし、私が人質になったとき沖田達はどうなるか?

「私たちもここを脱出するよ」

 エリサが体を起こそうとして悲鳴を上げる。これまで極度の緊張から分からなかったが、肋骨が折れているようだった。

「ちょっとまって。わたしもやってみる」

 アナがエリサの脇に手をやるときつく眼を閉じた。

 暖かな揺らぎが伝わり、ゆっくりではあるが確実に伝わり、痛みが徐々に和らいでくる。

 肋骨が終わると今度は、顔にも手をやった。腫れはすべて引かなかったが確実に痛みは除かれていく。

「できた!」

 アナが額の汗を拭って嬉しそうに微笑んだ。

「今ならお母さんの言うとおり、できるかと思ったんだ」

 驚く反面、これがニコライ達に知られなくて良かったと思う。

 他の人に見せてはならないと言うとアナは素直に頷いた。

 礼を言ってエリサは立ち上がり室内を見回した。

 ここは女王の秘書官達の居室だ。王族専用の隠し通路はないので、一つだけある扉か、鉄格子のはまった窓を打ち破って出るしかない。

 何か道具がないかとエリサとアナで部屋を探し回っていると、いきなり扉が開き、警護の兵に囲まれたフォークが現れた。

 フォークはスタンガンを取り出すと、エリサに向かって無造作に発砲した。

 電極付きの弾頭がエリサに引っかかり電線を通して瞬間的に数万ボルトの電流が流れる。エリサは声も発せぬまま倒れ込んだ。

 悲鳴を上げてアナがエリサに近寄ると、固い軍靴の底で蹴り上げる。

 吹き飛ばされたアナが痛みに呻き床でうずくまった。

「また暴れられると面倒なのでね」

 床にうずくまる二人を無表情に見つめると、顎をしゃくって兵に指示を出した。

「連れて行け」


To be continued.

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