第5話

 楽器屋の隣を通った時、私は吸い込まれるように店に入った。彼のギターが壊れてしまったのだ。どっきり、3周年記念のプレゼントとして持っていくのもいいかもしれない。

 以前彼と話した時、ギターのことを自慢していたのを思い出した。初めてバイトして、貯まった給料で買ったのだと。弾けるようになるまでは大分時間がかかったこと。

 好きなバンド、好きな曲を彼は楽しそうに話した。それを聞くのは私の特権で一緒に夜ご飯を食べながら、丁寧に相槌をうつのが私は大好きなのだ。

「これ下さい。」

 私は彼が弾き語りしているところを想像しながらギターを吟味していって、結局黒茶色のものを購入した。

 喜んでくれるといいな。いや、きっと彼は私に抱きつき、大いに喜んでくれるだろう、そうすると私ははいはい、といなして彼の頭をくしゃくしゃと撫でてま晩御飯を食べながら話しを聞くのだ。

 ふふ。と笑う。

「女の人がギター買うなんて珍しいすね。」

店員がレジに通しながら話しかけてくる。

「いえ、これは、彼氏へのプレゼントなんですよ。」

「へえ、それで笑ってたんすね。こんなきれいな人が彼女な上、ギタープレゼントされるなんて、彼氏さん幸せ者ですねえ。」

「そんな、いつも私の方がわがまま聞いてもらってるんですよ。だから私が幸せ者なんです。」

「なるほどねえ、お姉さんもギターしたくなったらまたぜひ来てよ。無料で教えますよー。」

「ありがとう。」

店員に背を向けてさっと店を出る。帰ろう。彼の待つあの部屋に。

 私は以前男の人が苦手だった。友人として話す分には女の人よりもそのしょうもない会話とくだらなさが楽しいが、恋愛対象となると女の人のの方が可愛くてメルヘンで柔らかくて好き。手を繋いでときめき好きな人の話をして顔を赤らめる女友達は愛らしく、その度に私にしておけばいいのにと思う。頭を撫でてキスをして。反面男はリアルだった。一概には言えないけど。欲望とより近くに恋愛が位置していて、生々しさが増している。

 時折わからなくなる。好きなのか嫌いなのか。欲望か愛情か。正しいのか誤りなのか。曖昧で正反対と思われるものはその境目がぼやけている。悲しくなって、その直後にうれしくなったり。

 全く興味のなかった君が大きな火傷をした。そのとき私は恋をした。私の言っていることは本心なのか、一時の感情なのか。どれが本当なんだろう。もしかしたら全部間違っているのかもしれない。もういい、考えることには随分と疲れた。

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