第3話

 打ち合わせからの帰り道、私は思い立ってショッピングモールへと立ち寄った。せっかく彼と会うのだからワンピースでも買おう。薄手のワンピースをひらつかせる自分の姿を思い描くと、ワクワクとした気分浮き足立つ。

 昔、バイトの先輩が2年付き合ってた彼氏を捨てて、ずっと友達として付き合ってたもう一人の先輩とくっついたことがあった。詳しいことは知らない。でも私はその話を聞いた時、ぞっと吐き気が込み上げてきた。

『告白された時、あたし、本当は、好きだったって気づいたんだよ。』

まるでハッピーエンドを迎えたお姫様のような顔で言う先輩。私は思った。

(ファッキン!!ビッチ!どうせ捨てるなら付き合うんじゃねえ!そんな好きじゃないなら、もっと早く振ってやれ!)

それまで少し仲良くしていた先輩に私は気持ち悪さを感じる。私は潔癖症気味なところがあるのかもしれない。先輩と付き合っていた人は30代で、結婚も考えていたらしい。

 聞けば聞くほど鳥肌だって、喉元まで胃液が逆流してくる。裏切り、信用、突然。ぐわんと視界が揺れる。人間の嫌な部分が嫌悪感が留どなく喉元から侵入してきて、許可なく胃を腕を足を暴れまわる。それは私のコントロール下になく、好き勝手にぞわぞわと気持ち悪く寄生虫のように這い回る。

 これが”普通”なのだろうか。もしそうならとても生きていけない。生きてはいけない、ってなんて軽い言葉だろう、と思う。なんで皆んな”普通”にできるんだろう。平然とした顔できるんだろう。青ざめていく顔。それでも私のあしは地面を掴んで離さない。

「とてもお似合いですよー!いいと思いますー!」

 白地に青いストライプのワンピースを着ると、きつい顔も少しやわらいで見えた。

「お姉さん細いから、ベルトとかリボンで締めるタイプが綺麗に映えますねー!」

じゃあ、これください。コレ着ていくんで、タグ切ってもらって、着てた服は、あ、はい、よろしくお願いします。

手際のいい店員にお金を払うと、さっきまできていた服をいれた店の紙袋を持って、私は店を出た。

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