魔女と骨 3

 そしておれは生きながらえた。不死者として。条件付きだけどな。

「え? つまり、どゆこと?」

 おれは三回くらい聞き返した。頭が理解を拒んでいたのだ。


 簡単にまとめるとだ。


 そのルージュという魔女は、その昔、悪魔との契約により強大な魔力を得たのだという。その対価として、悪魔から心臓と魂を求められていた。そこでルージュは自分の心臓と魂を分離し、金の器に隠した。悪魔はその金の器を探し出すことができず、怒り狂い、ルージュに襲いかかった。しかし、強大な魔力を得たルージュに返り討ちに合い、封印されてしまった。

 なかなかとんでもねぇ女だろ。


 その後、問題が生じた。

 ルージュは金の器を、とある場所の地中深くに隠しておいたらしいのだが、何モノかに掘り起こされてしまった。

 金の器の反応はこの遺跡の地下にあったのだが、見つけ出すことができない。

 長い時間、心臓と魂を分離していると、やがてその肉体は朽ちていくことになるらしい。

 そこでルージュは急場しのぎの、代わりの心臓と魂を探すことにした。


 たまたまそこに居合わせた、死にかけたおれに白羽の矢が立ったっつーわけだ。

 おれの心臓と魂はルージュと取り込まれ、『共有』されることとなった。ルージュから魔力が供給される限り、このからだが死ぬことはなくなったのだが……。

 

 おれが解放されるためには、ルージュの心臓と魂――金の器を探しださなければならない。延々とわき続けてくる魔獣との戦いで、肉体はボロボロとなり、ついに骨だけになってしまったんだ。これじゃ、家族に合わせる顔もねぇ。文字通りな。

 こんな状態で心臓と魂が戻ってきても死ぬだけ……。おれはルージュのしもべとして生きていくほかはない。

 ほんと、とんでもねぇ女だ、あいつは。



――。


「……はぁ。なんだか大変な目に遭ったんだな、アンタ」

 なんともとんでもない話だ。オレはルートというこの骸骨に同情した。

「そうなんだよ。こんなナリじゃ故郷にも戻れないし。この遺跡の広間をねじろにして、ルージュの金の器を探す日々さ。……ん?」

 物音に、オレとルートは振り返る。


 ユーリか? いや、違う。

 薄闇をかき分けるようにして、そいつは現れた。

「――魔獣!」

 ルートが剣を構えた。

 アレが、魔獣?

「くそが! おれの仲間の甲冑を着てやがる。悪趣味なヤツめ!」

 ボロボロの甲冑を纏って現れた『魔獣』。いや、アレは魔獣なんかじゃない。おれはアレを『知って』いる。


「アイツぁ、鎧大蟻だ!」

「ヨロイオオアリ?」

 ルートが首を傾げる。

「人間大くらいのデカい蟻で、どういうわけか金属を身に纏う習性があるんだ。金銀財宝を巣に持ち帰る習性もある。しかも肉食で獰猛、恐ろしいヤツだ」

「金銀財宝……!? すると」

「ルージュとやらの金の器を掘り返したのは、こいつらだろうな」

「ちっ、蟻か。どうりで無限に湧き出てくるわけだ。しかし、こんなとこまで上がってきたことは数えるくらいしかないのに……」

「そりゃ、たぶんオレのせいだな。オレの被っている金の腕輪が呼び寄せたんだろ」

 エルフのリーフからもらった腕輪。こいつを狙っているんだろうな。

 死霊の噂の正体。それはこの骸骨野郎のルートと、死者の甲冑を身に纏った鎧大蟻ってわけか。


 蟻はがちがちと大顎を鳴らした。

「一匹だけなら……うらぁっ!」

 ルートが気合を込めて剣を振るう。

 蟻は動くこともできず、なんと甲冑ごと真っ二つに。

「強いな、アンタ。骨なのに」

「ルージュの魔力のおかげで強化されているからな。筋肉なくても元のおれより強くなっているんだぜ」

 得意げにしているが、そのルージュのおかげで散々な目に遭っていることを忘れているんじゃなかろうな。

「蟻とわかりゃ、怖くねぇ。そして金の器はヤツらがいるところにある! やる気がでてきた! いくぞ、スライム!」

「お、おう」


 なんか巻き込まれたぞ。まぁ、いくけど。何の役にも立ちそうにないけど。

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